一票の不平等を考える 政治の姿をも歪める - 東京新聞(2017年8月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017081202000124.html
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昨年の参院選の「一票の不平等」をめぐる最高裁判決が年内にもある。「合区」導入でも格差は三・〇八倍あった。平等な一票で政治の歪(ゆが)みを正したい。
自民党が並べた憲法改正のメニューの一つに「合区解消の改憲」があった。これはおかしい。選挙制度は法律でいくらでも柔軟に変えられる。法律で変えられるものを憲法でというのは、改憲ありきの議論というべきだ。
参院選の合区解消は県単位の選挙区に戻す意味だから、今後、斬新な制度改革のアイデアが出ても憲法の力で封じ込められる。

◆ブロック制は封印か
例えば、かつて西岡武夫参院議長が全国を九ブロックに分割する案を出したことがある。格差は一・一五倍まで縮小する抜本是正策だった。しかし、こんな提案も永久に封印されてしまうのだ。
つまりは一票の不平等などおかまいなしに、旧態依然の選挙制度を確定させる−、そんな意図を持った改憲案なのだろう。
振り返っておきたい。昨年の参院選では「鳥取・島根」「徳島・高知」を統合し、都道府県単位だった選挙区で初めて「合区」を導入した。選挙区定数の「十増十減」を実施し、最大格差は最高裁違憲状態と判断した前回二〇一三年の四・七七倍から三・〇八倍に縮小した。努力したかといえば、いえるかもしれない。
しかし、三・〇八倍という数字は、一人が「一票」あるのに、ある人は「〇・三票」しかないのと同じ状態である。これは平等な選挙といえない。
ただ、ある人々は、選挙区は地理的要因、文化的要因、歴史的要因などさまざまな要因で決めるべきだと主張する。だから、参院選ならば県単位は不可欠だという。しかし、そのような不確定な要因を次々と認めていくと、結局は先祖返りして不平等が激しい選挙制度へと戻っていく。

◆投票価値の平等こそ
三年前に最高裁大法廷はいった。「憲法は投票価値の平等を要求している」−。この言葉は重い。この憲法原理は重いと思う。一人一票持つ人と一人二票持つ人がいたら誰しもどこか、おかしいと思うだろう。民主主義の原理としておかしい。ところが、昨年の参院選は三倍超の格差があった。
憲法は一票の平等を求めている。そうでないと有権者の多数決と国会議員の多数決とが一致しないのは明らかである。むしろ有権者数が少ない選挙区から順番に議員数を積み上げていくと、おそらく40%レベルで議員の数が過半数になるだろう。つまり「少数決」というべき奇怪な状態なのだ。
仮にそんな状態で多数決の横暴が起きたとしたら、有権者はただ黙っているだけなのか。不平等状態なのだから、議員の多数決を疑うべきではないか。一票の不平等は個人の平等を踏みにじっているだけではない。国会でのものごとの決め方さえ変える。政治の姿をも歪めるのである。
昨年の参院選をめぐっては既に十四の高裁・高裁支部では計十六件の判決が出され、「違憲状態」が十件、「合憲」が六件である。この裁判を起こしている升永英俊弁護士らは「憲法は個人の尊重を保障しており、投票価値が平等となる、人口に比例した選挙が民主主義の基礎だ」と主張している。
そもそも昨年の参院選はたった二つの「合区」をつくっただけだ。これが最高裁が求め続けてきた抜本的見直しだろうか。最高裁は「都道府県を参院選の選挙区の単位としなければならない憲法上の要請はない」と述べつつ、不平等の状態では合理的でないとしていたのだ。それでも三倍超の格差。それを司法が許したらどうなるか。升永氏はいう。
参院選が三度も繰り返して、違憲状態のまま行われるのを止めるためには、最高裁が本件裁判で、少なくとも違憲違法判決を下す以外に方法はない」
衆院選を比べる方法もある。一六年の衆院選小選挙区の最大格差は二・二一倍である。参院選は三・〇八倍。これについて、三年前の最高裁はこう述べている。
参議院衆議院とともに国権の最高機関。(中略)参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由はない>
参院選衆院選よりも不平等があっても仕方がないという人がいる。だが、この最高裁判決を読めば、この論も排除される。

憲法は「全国民の代表」
今求められるのは、「合区解消の改憲」などではなくて、法律による抜本改正である。限りなく平等に近づけることである。
憲法では、国会議員は全国民の代表であると規定している。広い視野を持って国政に精力を尽くす全国民の代表は、正しい一票で選ばれるべきなのだ。