(余録) 江戸川柳に「かやば町手本読み読み舟にのり」と… - 毎日新聞(2019年12月6日)

https://mainichi.jp/articles/20191206/ddm/001/070/084000c
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江戸川柳に「かやば町手本読み読み舟にのり」とある。江戸・茅場町寺子屋に渡し舟で通う子どもの様子で、読んでいた手本とは「往来物(おうらいもの)」と呼ばれた教科書だ。進学のない時代にずいぶんと勉強熱心である。
「教育は欧州の文明国以上に行き渡っている。アジアの他の国では女たちが完全な無知の中に放置されているのに対し、日本では男も女もみな読み書きできる」。これはトロイアを発見した考古学者、シュリーマンの日本観察である。
「みな読み書き」は言い過ぎにせよ、幕末や明治に来日した外国人はその故国と比べて日本の庶民、とくに女性が本を読む姿に本当に驚いている。歴史的には折り紙つきの日本人の「読む力」だが、その急落を伝える試験結果である。
79カ国・地域の15歳を対象に3年ごとに行われる国際的な学習到達度調査(PISA)で、昨年の読解力の成績が前回の8位から15位へと低下した。科学や数学の応用力の成績が上位に踏みとどまった中での際だった学力後退という。
「テスト結果に一喜一憂(いっきいちゆう)するな」と言いたいところだが、この成績低下、思い当たるふしがあるのがつらい。何しろ本を読まない、スマホに没頭(ぼっとう)する、長文を読んで考える習慣がない……止まらない活字離れを指摘する専門家が多い。
以前はゆとり教育からの路線転換をもたらしたPISAのデータだが、読解力はV字回復の後に再び低落した。川柳子や幕末の外国人を驚かせたご先祖たちに教えてもらいたくなる「楽しく読む力」である。