(余録)「読まずんば死せよ」… - 毎日新聞(2018年10月27日)

https://mainichi.jp/articles/20181027/ddm/001/070/172000c
http://archive.today/2018.10.27-001019/https://mainichi.jp/articles/20181027/ddm/001/070/172000c

「読まずんば死せよ」。ものすごい標語もあるものだが、これは大正時代の第1回図書館週間の標語募集で3等になった作品という。2等は「最大の国も一箇の図書館より小なり」、1等は該当作なしだった。
この図書館週間、戦後の1947年に始まった読書週間の前身ともいえる戦前の読書推進運動である。ちなみに、読書週間としては第72回となる今年の標語は「ホッと一息 本と一息」という。先の脅迫標語とは対照的な癒やし系だ。
だが小紙の読書世論調査を伝える紙面には「雑誌購買『減った』37%」「『本買わない』増加、24%」など相変わらず活字離れの進行を伝える見出しが並ぶ。こうなれば脅迫系標語を持ち出したくなる出版人が現れてもおかしくない。
今回の調査では読書の前提となる日本人の読み書き能力についての意識調査も行った。結果、能力不足を感じる人が8割を超え、原因をスマホなどの利用に求める人が4割になった。どうも長文の読み書きに及び腰なのが感じられる。
幕末から明治に来日した欧米人は日本の庶民の多くが読み書きできるのに驚き、貧困層若い女性が貸本をむさぼるように読んでいるのに目を見張った。読み書きの能力と本を読む楽しみとが表裏一体だったご先祖たちの幸せである。
今年の世論調査の救いは読書を「大切」と思う人が95%の多数にのぼり、読書を尊ぶ価値観の健在が示されたことだろう。脅迫など一切無用、ひたすら本を読む「幸せ」を探求したいこの読書週間である。