香港人権法成立 自由の危機を見捨てない - 信濃毎日新聞(2019年11月30日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191130/KT191129ETI090010000.php
http://web.archive.org/web/20191201002223/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191130/KT191129ETI090010000.php

香港の混乱は米中が鋭く対立する新しい局面に入った。
トランプ米大統領が署名して香港人権・民主主義法が成立した。議会の上下院が圧倒的多数で可決していた。
中国は「断固として報復する」と極めて強い表現で米国を非難している。「第1段階の合意」に向けて大詰めだった米中貿易協議への影響は必至である。
それを承知で法案を可決した超党派の動きは、中国への強い警戒心とともに、民主主義体制の大国として香港市民を見捨てない姿勢を鮮明にしている。
香港の民主派は先の区議選での圧勝に続き、米国が支援を法制化したことを歓迎している。中国は当面、人民解放軍の出動といった極端な抑圧や介入は選択しにくくなるだろう。
米国は「一国二制度」を前提に関税やビザ発給などで香港を中国本土より優遇してきた。同法は優遇措置を続けるかどうか毎年検討するよう国務省に求める。
具体的には集会や言論の自由、司法の独立が守られているか、中国によって自治が侵害されていないかを検証する。人権侵害に関与した人物の入国拒否や資産凍結といった制裁も盛り込んだ。
貿易協議の成果を大統領選に生かしたいトランプ氏にとっては、意に沿わぬ署名だった。
米世論から「弱腰」と見られる恐れや、ウクライナ疑惑の弾劾手続きで与党共和党との協力関係を維持したい思惑が影響したようだ。署名しなくても法案は自動成立し、拒否権を行使しても議会に覆される可能性が高かった。
それゆえ署名後も中国を強く批判せず、法の柔軟な運用までにおわせている。決定的な対立を回避したいとの思いがにじむ。
逆に中国に足元を見られたかもしれない。大統領選が近づくほど貿易協議で譲歩を引き出せるとみる中国は、今回の対立を奇貨として持久戦に持ち込むしたたかさを持ち合わせている。
香港行政府や中国政府は区議選後も民主派の要求に応じる姿勢を示していない。「内政干渉だ」と対米批判を強める中国が直ちに妥協する可能性は低い。国際社会の粘り強い説得が一層重要だ。
日本政府は来春、習近平国家主席国賓として招く予定だが、自民党の一部から異論が出ている。
良好で強固な日中関係を構築しながら、苦言も明確に伝えて翻意を促すべきだ。「自由の危機」を放置せず、香港市民に寄り添う外交力が求められる。