(斜面) けじめを付けたはずの政教分離 - 信濃毎日新聞(2019年8月23日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190823/KT190822ETI090010000.php
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諏訪市役所屋上の片隅にほこらがある。「水道の守り神」として引き継がれてきた稲荷(いなり)社だ。毎年2月には「初(はつ)午(うま)の式」が職員や水道業者が参列して執り行われる。油揚げ、米、酒を供え、祝詞を上げて地域の安全や発展を祈るそうだ

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稲荷社はかつて旧庁舎上部の傾斜地にあった。昭和の初め、崩れ落ちてきた大きな岩をほこらが食い止め、水道部の職員らは難を逃れた―。そんな逸話が残る。庁舎が1968(昭和43)年、現在地に移る際に職員から「社も一緒に」との声が上がった

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憲法89条が宗教活動への公費支出を禁じているため職員互助会が屋上に石のほこらを建立した。初午の式も昼休みを利用し互助会が主催している。社の起こりや水道の守り神とされた経緯は定かではない。ただし憲法の「政教分離」には細心の注意を払ってきたことがしのばれる

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阿部守一知事が県護国神社の支援組織の会長を務め、寄付集めにも名を連ねていたという。神社例祭に出席して参拝している。県費を使ってはいないし玉串料も納めていない。知事は「個人としての活動」という。だから問題はない、と胸を張れるのか 

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先の大戦国家神道軍国主義の推進力になり、人々を戦場に駆り立てた。政治はどの宗教も特別扱いして援助してはなるまい。政治と宗教の結び付きを絶つべく、けじめを付けたはずの政教分離だ。その堤は忘却の波に崩れやすくなっている。「アリの一穴」に用心しなければいけない。