https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019090602000174.html
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香港政府の林鄭月娥長官は「逃亡犯条例」改正案を完全撤回すると正式表明したが、民主派は遅すぎると反発している。デモ隊は抗議が過激化せぬよう、冷静に民主化を求める闘争を進めてほしい。
犯罪容疑者の中国への移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案について、林鄭長官は四日にテレビ演説し完全撤回を表明した。
長官は七月に「改正案はすでに死んだ」と述べ、事実上廃案となっていた。約三カ月続く抗議の発端である撤回要求について、香港政府をコントロールする中国政府が容認したからこそ長官は撤回表明できたといえる。
だが、強権政治を露骨にする中国政府が、たとえ一つでも民主派の要求を受け入れたことは、闘争の成果である。
中国譲歩の背景には、内政では十月の建国七十周年を祝う国慶節を平穏に乗り切り、外交では激しさを増す米中貿易摩擦を念頭に、香港問題で揺さぶりをかける米国の圧力をかわす狙いがあろう。
長官の撤回表明に、民主派は「遅きに失した」として、闘争継続の姿勢を示した。抗議運動では千百人以上が逮捕され、自殺者も出た。
それだけに「撤回など三カ月前にするべきだった」と民主派が反発する気持ちはよく分かる。
一方、中国政府系英字紙のチャイナ・デーリーは「もはや暴力的な行為を継続する理由はない」と強調。林鄭長官も「デモを暴動とした認定の取り消し」など、条例撤回以外の四つの要求には「ゼロ回答」だった。「撤回」をめぐる中国、香港政府と民主派の評価の隔たりは極めて大きい。
このため、民主派がさらに抗議を過激化させようとすれば、武力による鎮圧の可能性も生じよう。香港社会を「少数の暴徒と穏健な市民」に分断する中国、香港政府の戦略に乗せられ、抗議運動が失速する危険性もある。
国際都市である香港の抗議運動には世界の関心も高く、民主派も自由に情報発信できる。この強みを生かし、国際社会と連帯して中国が「一国二制度」の国際公約を踏みにじる理不尽さを訴えていくべきではないか。
デモ隊の要求のうち、今や最大の目標は普通選挙はじめ民主化の実現である。そもそも、香港の憲法といえる「基本法」は長官選について「普通選挙で選ぶのが最終目標」とうたう。中国はこの原点を尊重すべきだ。人々の民主化への思いを軽く見てはならない。