(筆洗) ハリウッドの技術の進歩に目を見張るが、 - (2019年11月10日)

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マーティン・スコセッシ監督の新作「アイリッシュマン」の予告編の中にずいぶんと若いロバート・デニーロが出ていた。今年、七十六歳のデニーロが三十歳そこそこにしか見えない。
ディ・エージングという特殊効果らしい。コンピューターグラフィックス(CG)によって顔や姿を若返らせている。回想シーンには便利で効果的だろう。なにしろ若き日を演じているのは本人である。
ハリウッドの技術の進歩に目を見張るが、ついには、亡くなっている俳優を新作映画に起用できる時代が来ているらしい。一九五五年、二十四歳の若さで交通事故死した俳優ジェームズ・ディーンを来年公開予定の映画に登場させると米国の映画製作会社が発表した。これを出演作と数えるのなら「ジャイアンツ」以来となる。
かつてのディーンの写真や映像をCG処理して準主役級で使うというから驚く。もはやチャプリンの新作コメディーも夢ではない時代か。
もっとも映画界の評判はあまりよろしくない。それはそうだろう。遺族の許可を得たとはいえ、本人の意思とは関係なくイメージを使われ、「操り人形」のように「演技」をさせられる。名優もおちおち眠っていられまい。
「俳優である前に人間でなければならぬ」。丸山定夫の俳優論をふと思い出す。残念ながらそのジミーはCGであって人間ではない。ちょっと見たい気もするが。