憲法の岐路 首相の決意表明 国民の意識とずれている - 信濃毎日新聞(2019年9月14日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190914/KT190913ETI090003000.php
http://archive.today/2019.09.16-013318/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190914/KT190913ETI090003000.php

安倍晋三首相が改憲への意欲を重ねて表明している。
国民の意識とは、ずれがある。内政、外交とも課題が山積している。優先して取り組むべきことは他にある。改憲ありきの姿勢は改めるべきだ。
内閣改造後、首相は改憲について「困難でも必ず成し遂げる」と決意を示した。「自民党憲法審査会でリーダーシップを発揮すべきだ」と述べ、野党側にそれぞれの改憲案の提起を促している。党役員会でも「党一丸となって力強く進めたい」と訴えた。
党の憲法改正推進本部長には昨年10月まで務めた細田博之元幹事長が再登板する。前任の下村博文氏は野党が憲法論議に消極的だとして「職場放棄」と発言し、反発を呼んだ経緯がある。交代で議論を加速させたいのだろう。
二階俊博幹事長は会見で「総裁の意向に沿って党を挙げて憲法改正へ努力を重ねる」とし、岸田文雄政調会長も「雰囲気づくりを後押ししたい」と強調した。幹部がこぞって与野党折衝に乗り出しても議論が進展するかは疑問だ。
2017年に首相が提案した9条への自衛隊明記は党内に異論が残る。首相は「違憲論争に終止符を打つ」とするものの、戦力不保持を定める9条2項維持では論争は終わらないとの声がある。
連立を組む公明党も慎重な姿勢だ。夏の参院選では「多くの国民は自衛隊の活動を理解、支持しており、違憲の存在とは考えていない」としていた。自民の案は説得力に欠ける。
首相は参院選で「憲法を議論する政党を選ぶのか、審議を全くしない政党を選ぶのか」と繰り返した。結果を受けて「少なくとも議論は行うべきだという国民の審判が下った」と述べていた。
改憲勢力が国会発議に必要な3分の2を割り込んだにもかかわらず、都合のいい解釈である。
内閣改造を受けて共同通信社が行った世論調査では依然、安倍首相の下での改憲に「反対」が「賛成」を上回っている。内閣が優先して取り組むべき課題に「憲法改正」を挙げた人は少ない。国民の声を受け止めるべきだ。
秋の臨時国会で与党は国民投票法改正案を含めた論議を各党に呼び掛ける。改憲の是非を問うに当たってのCM規制の在り方、最低投票率の規定など検討課題が多く残っている。この点でも発議に向けた議論を急ぐ状況にはない。