https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/467332
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香港政府トップの林鄭月娥行政長官が、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を正式表明した。撤回を求め3月に民主派団体によるデモが行われてから約半年。次第に大きくなる抗議活動に強硬姿勢を崩さなかった香港当局が、一転して譲歩した形だ。
ただこの間、香港の警察はデモに参加した多くの若者を逮捕・拘束し、催涙弾まで投入して鎮圧を図った。この警察の「暴力」は条例改正案が中国への同化政策の一環であることを印象付け、市民の危機感をいっそうあおる結果となった。
今や市民の要求は改正案撤回を含め、林鄭氏の引責辞任、警察の暴力に対する調査、拘束されたデモ参加者の釈放、民主的な普通選挙の実現の5項目に広がった。
撤回表明を受け会見した民主派の立法会(議会)議員らは「林鄭氏の反応は遅すぎた」と一蹴し、「闘争を続ける」との声明を発表。民主活動家の周庭さんも「条例の撤回は喜べない。遅すぎた」と批判している。
背景には撤回表明の一方、残る4要求には一切応じず、「(ごく少数の人が)香港を危険な瀬戸際に追いやっている」などと抗議活動を非難した林鄭氏のかたくなな態度がある。
林鄭氏は「争いを対話に換えよう」と呼び掛け、政府と市民の対話の枠組みづくりにも言及したが、市民感情を読み誤ったまま真の対話が実現できるとは思えない。
撤回表明後も続く市民らの懸念は当然だ。■ ■
1997年の香港返還以降、最大規模となった抗議活動は6月中旬、最多の200万人(主催者発表)が参加。香港中心部でのデモにとどまらず、多業種にわたるゼネストや中高生の授業ボイコット、香港国際空港の占拠にまで拡大した。
こうした抗議活動に武力介入まで示唆し、香港当局による譲歩を断じて認めなかった中国の習近平指導部の判断は全て裏目に出た。
「一国二制度」を喧伝(けんでん)しながら、民衆の声を無視してきた中国の強硬姿勢こそが、香港を混乱に陥れていると自覚すべきだ。
建国70年を迎える10月1日の国慶節を成功に導くため路線変更を余儀なくされた中国だが、香港の市民が求めているのは目先の譲歩などではない。
真の「一国二制度」の獲得であり、香港の民主化である。■ ■
中国共産党中央政法委員会は撤回表明について「最大の誠意を示した」と評価する記事を掲載したが、市民と政府の対話実現のためには残る4要求の一つ、林鄭氏の引責辞任は免れまい。
一方、林鄭氏は最近の非公式会合でいったん示した辞任意向を翻した。中国の制御下で香港政府トップには辞任の自由すらないことを示唆している。
中国は香港返還の際「高度な自由」を公約したが普通選挙の実施は凍結したままだ。約束を守り、自由と民主化を求める香港の人々の声に耳を傾けるべきだ。