香港が緊急法 強権的手法直ちに改めよ - 琉球新報(2019年10月7日)

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香港政府が「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動し、これに基づきデモ参加者のマスク着用を禁じる「覆面禁止法」を制定した。香港各地では激しい抗議行動が起き、警官が実弾を発射し14歳の少年が太ももに重傷を負った。
中国建国70周年の記念式典があった1日には高校生が警官に胸を撃たれ、一時重体になる事態になった。デモの取り締まりとして明らかに行き過ぎだ。市民の反発は高まる一方だ。混乱を収拾したいなら、まず香港政府が強権的な手法を直ちに改めなければならない。その上で市民と対話することだ。
緊急法は、政府トップの林鄭月娥行政長官に特権を与え、立法会(議会)の手続きを経ずに法律が作れる。同条例を使えば会員制交流サイト(SNS)への発信や市民の移動を制限することも可能になる。
覆面禁止法についても政府は「過激な違法行為を抑止し、警察の法執行に役立つ」と主張する。
しかし、そもそも市民の要求を考えれば、取り締まりの強化によって事態が収拾するとは考えにくい。大規模デモのきっかけは、容疑者の中国への移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する抗議運動だった。
以来、100日以上、抗議行動は続く。市民は、中国共産党の判断が全てに優先され、強権によって自由を制限しようとする流れに強く抵抗している。
さらに香港の自治が土台から崩されようとしていることへの危機感もある。1997年の香港返還の際の約束である「一国二制度」だが、中国政府の干渉によって、香港の自治を守る二制度が軽んじられる事例が起きている。
林鄭氏は先に逃亡犯条例改正案の撤回を発表し、市民との対話集会を開いたが、その一方で民主派の議員や活動家を含む1100人以上を逮捕し、緊急法発動、覆面禁止法制定という強権策を取る。これでは林鄭氏の「対決を対話に変えるよう望む」という訴えが空虚に響く。
若者らのデモは過激化し、中国系銀行や店舗に放火するなどし、警察と双方の暴力がエスカレートしている。一部を除き地下鉄が終日運休となるなど社会生活に深刻な影響を及ぼしている。
香港政府の強硬対応の背景には、中国建国70年の一大イベントを乗り切った習近平指導部が、国際社会の批判をものともせずに抗議行動を抑え込む姿勢が透けて見える。
暴力対暴力のエスカレートは誰も望んでいないだろう。国際金融都市の経済にも打撃が続く。中国は圧力や介入をやめて香港の自治を認め、一国二制度を尊重すべきだ。香港政府は香港繁栄の礎となった自由と、市民の平等を重んじた司法制度を守り、混乱の収束を図らなければならない。林鄭氏は最悪の事態を避ける責任がある。