斜面「亡き父は晩年なぜ『ネット右翼』になってしまったか」 - 信濃毎日新聞(2019年9月5日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190905/KT190904ETI090007000.php
http://archive.today/2019.09.05-012628/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190905/KT190904ETI090007000.php

77歳で逝った父親の遺品整理でパソコンを開くと「嫌韓」「嫌中」サイトの数々が登録してあった―。ルポライター鈴木大介さんが「亡き父は晩年なぜ『ネット右翼』になってしまったか」と題し体験をネットメディアに書いている

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父親が末期がんの告知を受けたため、毎月実家に戻って通院に付き添うようになった。久しぶりに見た父親の書斎に「右傾雑誌」の数々が置いてあった。病院の行き帰りに韓国人や中国人、さらには女性を蔑視する言葉が口を突いて出てきて耳を疑った

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枕元の本は過激な内容の雑誌になり、衰弱すると差別やヘイトを音声で読み上げるテキスト動画をパソコンで聞いていた。多様な分野の蔵書を持ち思慮深いはずだった父親。その晩節は喪失感と認知の衰えに付け込んでもうけようとする「右傾コンテンツ」にむしばまれたという

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週刊ポスト」の最新号が「断韓」を宣言する特集を組んだ。たとえ国交を断絶しても大損をするのは韓国と言いたいらしい。「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」との記事も載せた。激しい見出しには「売れさえすれば」の思惑がにじみ出る

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青弓社刊「ネット右翼とは何か」によれば、日本は「極右」が階層の偏りがなく広がっていて社会に警戒心が乏しい。多くは現政権に共感しているため政治に見放されているとの疎外感は薄い。鬱憤(うっぷん)が外に向いていれば政権には好都合だろう。敵意をあおり続ける歯車を止めねばならない。