文科相発言 異論排除を助長するな - 朝日新聞(2019年8月29日)

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ヤジを飛ばした市民の排除を是認するかのような閣僚の発言は、警察の行き過ぎた実力行使を助長しかねない。到底見過ごすわけにはいかない。
先日の埼玉県知事選で、応援演説に立った柴山昌彦文部科学相に対し、大学入試改革への反対を訴えた大学生が警官に取り囲まれ、現場から遠ざけられるという事態が発生した。
柴山氏は一昨日の記者会見で「表現の自由は最大限保障されなければいけない」と述べる一方、演説を聴きたいという聴衆の権利に触れ、「大声を出すことは権利として保障されているとは言えないのではないか」との考えを示した。警察の取り締まりにお墨付きを与えるものと言わざるを得ない。
政治家による街頭演説は、支持者だけではなく、さまざまな考えを持った幅広い聴衆に向けられるものだ。ヤジも意思表示のひとつの方法であり、これが力ずくで排除されるようになれば、市民は街頭で自由に声を上げることができなくなる。その危うさに、柴山氏は思いが至らないのだろうか。
大学生が抗議した入試改革は、実施が目前に迫るなか、英語の民間試験導入の全体像が固まらないなど、受験生や保護者らの間に不安が広がっている。「柴山やめろ」「民間試験撤廃」と訴えて排除されたが、柴山氏が懸念する演説妨害にあたるとはとても思えない。
柴山氏は、「抗議の声をあげる権利は保障されている」とネット上で指摘されると、「大集団になるまで警察は黙ってみていろと?」などとツイッターで反論した。教育行政の責任者としてまずなすべきは、批判に謙虚に耳を傾け、政策に生かすことではないのか。
先の参院選では、安倍首相の街頭演説でヤジを飛ばした聴衆が排除される事例が相次いだ。
札幌市では、「安倍やめろ」などと連呼した男性と「増税反対」と叫んだ女性が、それぞれ警官に取り囲まれ、離れた場所に移動させられた。大津市でも、首相にヤジを飛ばした男性が遠ざけられた。
一連の対応について、政府は「警察の活動は不偏不党、公正中立を旨として行われるべきだ」(菅官房長官)と原則論を繰り返すだけだ。北海道では鈴木直道知事が、警官の行動の法的根拠など事実関係の公表を道警に要請したが、「確認中」などとして明確な説明はなされていない。
強引な国会運営や説明責任の軽視など、異論を受け止める寛容さを欠く安倍政権の体質が影響してはいないか。そんな危惧を抱かせる柴山氏の今回の発言である。