首相演説でやじ排除 警察は公平中正堅持せよ - 琉球新報(2019年7月25日)

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表現の自由の侵害が疑われる警察の対応だった。
安倍晋三首相の参院選街頭演説中に「安倍辞めろ」などとやじを飛ばした聴衆を、北海道警の警察官が腕を抱えるなどして取り押さえ、強制的に排除した問題だ。7月15日にJR札幌駅前で起きた。
道警は、道路を挟んで20メートルほど離れた場所から「安倍辞めろ」「帰れ」と大声を出していた男性を、警察官数人で囲んで、現場の後方に移動させた。
1人で演説を聞いていた女子大学生は「増税反対」と叫んだ瞬間、スーツ姿の警察官7~8人に囲まれ、腕を捕まれるなどされて移動させられた。その後も約1時間つきまとわれたという。
別の場所では、用意していた年金問題のプラカードを掲げる前に警察官に取り囲まれて排除された60代の女性もいる。女性は「声も出していない」と語っている。
公権力が、政権を批判する国民の口を封じ、目をふさぐ。独裁国家で起きているような光景ではないか。
そもそも、どのような法的根拠に基づいて聴衆を排除したのか。道警は「トラブルや犯罪予防」とコメントするだけで、詳しい説明を避けている。不可解極まりない。根拠もなく権力を行使できるのなら、警察は何をやっても許されることになる。
警察法第2条は次のように規定する。
「責務の遂行に当つては、不偏不党且(か)つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用(らんよう)することがあつてはならない」
道警の対応は政権に肩入れしているようにしか映らない。不偏不党、公平中正と受け止める人が果たしてどれくらいいるのだろう。表現の自由などに不当に干渉する「権限の濫用」との疑いが強い。
公職選挙法は演説の妨害に罰則規定を設けている。ただし、1948年の最高裁判決は「聴き取ることを不可能または困難ならしめるような所為」と明示した。
拡声器を使ったわけでもなく、演説が聞き取れなくなるほどの事態が生じていたとは思えない。排除された人は腕や体をつかまれ、一時的に身体の自由を奪われた。道警の対応は行き過ぎで、不適切と言わざるを得ない。
背景に「首相に不快な思いをさせるわけにはいかない」「官邸サイドの不興を買いたくない」といった思惑があったのではないか。政権への忖度(そんたく)が強く疑われる。
今回のケースが不問に付されるのなら、全国で同様の事例が横行し、人権が脅かされる恐れがある。再発防止を強く求めたい。
警察の権力は絶大である。治安維持の名の下に言論を弾圧した過去の反省を踏まえ、現在の警察組織は成り立っている。職権の乱用は絶対にあってはならない。