https://mainichi.jp/articles/20190820/ddm/001/070/128000c
http://archive.today/2019.08.20-005453/https://mainichi.jp/articles/20190820/ddm/001/070/128000c
「アメリカはいい国だった。どうなっちまったんだ」。今の話ではない。50年前の1969年、米国で公開されたデニス・ホッパー監督のアメリカン・ニューシネマの代表作「イージー・ライダー」でのセリフである。
アウトロー2人が自由気ままに大型バイクを駆って、米国を横断するロードムービーだ。主演や脚本をつとめ、一躍人気者となったピーター・フォンダさんが先週、79歳で亡くなった。
ヒッピーのコミューンや排他的な地方の町など、映画は当時の米国社会の断面を切り取っていく。そこで見たのは、自由だと思っていた国の病巣や闇。「アメリカ人は自由を証明するためなら殺人も平気だ」というセリフが耳に残る。
公開の前年にはキング牧師が暗殺され、ベトナム戦争の泥沼化、公民権運動の高まりなど米国の不条理が一気に噴き出した時代でもあった。既存の価値観へのカウンターカルチャーとして若者をとりこにしたのもうなずける。
半世紀後の今はどうか。トランプ政権下で分断や格差は拡大し、移民は排斥され、人権や自由が脅かされる。怒れる若者は社会主義に引きつけられているという。フォンダさんが託した思いと、どこか響き合う。
映画のラストも衝撃的だ。トラックに乗った南部の白人に2人はあっけなく撃たれる。フォンダさん自身は家族にみとられてこの世を去ったという。ウェブサイトにこんな言葉を残している。「人は学ぶことで、真の自由を得られる。そして人は自由でなければ学べない」