(余録)歌は世につれというが… - 毎日新聞(2018年12月24日)

https://mainichi.jp/articles/20181224/ddm/001/070/154000c
http://archive.today/2018.12.24-023223/https://mainichi.jp/articles/20181224/ddm/001/070/154000c

歌は世につれというがクリスマスの定番も例外ではないらしい。米国で「ベイビー、イッツ・コールド・アウトサイド」が反セクハラ運動#MeTooを受け、ラジオで流すべきか論議を呼んでいるという。
「もう帰らなきゃ」と言う女性に、「外は寒いよ」と引き留める男性の掛け合いで歌われるのが一般的。じゃれあいか、セクハラか。ともあれ、作られた74年前とは価値観が変わったことは間違いない。
大きく価値観が揺らいだといえば、敗戦後の日本。1945年から朝鮮戦争が始まった50年まで5年間のクリスマスを軸に、戦後民主主義とは何だったのかを問うのが斎藤憐(れん)の戯曲「グレイクリスマス」だ。今月、劇団民芸が約20年ぶりに上演した。
タイトルは雪のないクリスマスを指す。こんなセリフがある。<雪は、ゴミ溜(た)めも焼け跡も、汚いものをみんな隠してくれます><雪、降らないかしら。明日になればとけてしまって、いろんな汚いものが見えてもかまわない>
憧れのホワイトクリスマスならぬ灰色の世界は、うやむやのまま幕引きされた官僚のセクハラ疑惑や課題を積み残したままの外国人労働者受け入れ拡大、改憲の動きなど、どんよりとした今の日本の空気を思わせる。
芝居は雪の降る中、主人公が憲法を読むシーンで幕となる。<この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない>。世につれ、変わるものがある。そして、変えてはいけないものもある。