(筆洗) ヘイトスピーチとは何か - 東京新聞(2019年7月20日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019072002000141.html
https://megalodon.jp/2019-0720-0941-58/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/hissen/CK2019072002000141.html

父に連れられ、買い物にやってきた小学六年生のまどかさんは、街で何事かを声高に訴える集団に出会う。「祖国へ帰れ」のプラカード、「○○人は出て行け!」の言葉に衝撃を受けた。法務省の小冊子に、そんな筋立てのマンガが掲載されている。
ヘイトスピーチ解消法ができたのに合わせて、ヘイトスピーチとは何か、何が問題かなどを示したマンガである。帰宅後、まどかさんはネットで検索してまた驚く。集団と同じ主張があったからである。「こんなことを言う人がいるなんて」「こんなに書き込みがあるんだ」
「こんなこと」にそっくりの言葉を発し、ツイッターに書き込む人が米国の大統領と知れば、まどかさんの衝撃も数倍だろう。「国に帰ったらどうか」「嫌なら出て行けばいい」などのトランプ氏の言葉に国境を超えて驚きと懸念が広がる。
非白人の女性議員たちに向けて発した言葉だ。非難決議が議会で可決されても、大統領は人種差別でないと開き直っている。
かの国の定義は知らない。小冊子にあるわが国の尺度に照らしてみれば「不当な差別的言動」に該当するヘイトスピーチとしか思えない。
大統領再選に向け人気獲得を狙っているらしい。何かのたがを外すきっかけになりはしないか。支持者集会で聴衆が興奮気味に「彼女を送り返せ」と連呼したそうだ。マンガも描かなかった驚きの光景である。