(筆洗)「デモクラシー ダイズ イン ダークネス」 - 東京新聞(2017年2月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017022602000144.html
http://megalodon.jp/2017-0227-1018-08/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017022602000144.html

深い闇の中にある政界不祥事を追い続けていた記者が社主に呼ばれた。取材の方は政治家の情報隠蔽(いんぺい)によって真相が見えてこない。社にも権力側の圧力がかかっていた。
危険な状態の中でも社主は取材を続けることを認めた。その上でこう尋ねた。「事件の真実はいつ得られそうなの?」。「決して真実は得られないと思います」。こう答えざるを得なかったが、社主は怒ったそうだ。「決してなんて絶対に言わないで!」
記者とは米ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード氏。ニクソン大統領を退陣に追い込んだウォーターゲート事件を取材した当時の逸話である。キャサリン・グラハム社主のその言葉が記者を奮い立たせ、「大統領の陰謀」を暴いた。
そのポスト紙が創刊以来初の公式スローガンを最近制定した。「デモクラシー ダイズ イン ダークネス」
直訳すれば「民主主義は暗闇の中で死ぬ」。だから新聞は暗闇を照らす灯であり続けなければならぬ。そういう決意表明である。ウッドワード氏の言葉がヒントだそうで、あきらめを許さなかった、あの社主の言葉にもつながるか。
残念ながら闇は深い。トランプ政権が今度は記者会見からCNNなど一部のメディアを追い出した。民主主義を危うくする権力側のメディア選別に報道機関はポスト紙を含め抗議の声を上げる。無論あきらめない。決して、である。