ハンセン病救済 「人間回復」へ本腰を - 東京新聞(2019年7月10日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019071002000169.html
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ハンセン病元患者の家族訴訟で、安倍晋三首相が控訴を断念した。差別被害の深刻さを考えれば当然である。政府は謝罪をし、重大な人権侵害を受けた被害者の救済に向けた道筋を示すべきだ。
ハンセン病元患者らの訴訟を巡っては二〇〇一年に小泉純一郎首相が控訴を断念、国の責任を認めている。今回の訴訟では家族らの受けた人権侵害についても安倍首相は「筆舌に尽くしがたい経験」だと述べている。事実の重みを考えての判断だろう。
本紙社説は〇一年の控訴断念の際、「“人間回復”へ第一歩」と主張し元患者らへの手厚い対策を求めた。今回はさらに対策を加速させ救済と差別解消に本腰を入れねばならない。
原告の家族らは首相との面会と謝罪を求めている。首相が本当に隔離政策は誤っていたと考えるのなら、まず面会して被害の訴えに耳を傾けるべきだ。
今後は具体的な救済策を検討することになるが、被害者全員を救済の対象にする必要がある。
熊本地裁判決は原告五百六十一人のうち、二十人について身内が元患者だと知ったのが最近だったなどの理由で請求を棄却した。確かに、家族をどこまで救済の範囲にするのかは難しい問題だ。
家族らは、救済策を話し合う協議の場の設置と一律の救済を求めている。被害者らが納得できる救済策をつくらねば意味がない。家族らも救済の対象に位置付ける法整備など実効性ある枠組みをつくることが大切である。
隔離政策が問題となってからも国会は関連法の改正や廃止を怠ってきた責任がある。法整備は迅速に進めるべきだ。
司法の動きも気になる。元患者家族が国に損害賠償を求めた別の訴訟で、広島高裁松江支部は原告の請求を退けた。判決は、国民の間に差別意識があり「国によって偏見や差別が創出されたとまではいえない」と言う。
しかし、隔離政策が偏見や差別を助長させたのではないのか。審理中の最高裁は政府決定を重く受け止めてほしい。
何より偏見や差別の解消が最大の救済になる。政府は啓発活動に取り組んでいるが、実効性に疑問符がついている。これを機に内容の再点検をしたらどうか。
偏見や差別は社会が許してきた面もある。被害者の尊厳を取り戻す努力は社会全体に求められる。私たち自身の責任であるとの自覚を持ちたい。