家族訴訟控訴せず 国は謝罪し被害者救済を - 琉球新報(2019年7月10日)

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ハンセン病元患者の家族への人権侵害に政府がようやく目を向けた。国は誠意をもって被害者を救済すべきだ。
隔離政策による家族への差別被害を認めて国に損害賠償を命じた熊本地裁判決について、安倍晋三首相が控訴しない方針を明らかにした。
人権を踏みにじる誤った政策を国が取り続けたせいで、患者はもとより家族までもが長年にわたっていわれのない差別を受け、想像を絶するような苦難を味わわされた。政府の方針は至極当然である。
もし逆の判断を示していたならば、人権問題に向き合わない政権として批判を浴びたことは疑いない。
首相は「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族の苦労をこれ以上、長引かせるわけにはいかない」と述べた。その言葉が真実であれば、全ての被害者に対し、政策による幅広い救済措置を講じるのが筋であろう。まずは政府を代表し、全ての元患者とその家族に謝罪してほしい。
ハンセン病は、らい菌という細菌が引き起こす。感染力は極めて弱い。1943年に米国で治療薬が開発された。
日本では明治後期から患者を強制的に収容し隔離政策を取った。戦後は旧優生保護法に基づき不妊手術が強制される。隔離政策を固定化させたのが53年成立の「らい予防法」だ。国は96年にようやく同法を廃止した。
熊本地裁判決は、医学の進歩や国内外の知見などから、遅くとも60年には隔離政策の必要性は消失していたと指摘した。そのうえで「遅くとも60年の時点で厚相は隔離政策の廃止義務があった」と断じた。損害賠償請求権の時効が成立したとする国側の主張も認めなかった。
患者の家族は就学や就労をを拒まれたり、村八分に遭ったりした。学校ではいじめを受け、結婚にも支障を来した。幼少期に親と引き離されるなど、普通の家庭生活を送ることができなかった。
こうした重大な不利益は、国がハンセン病を「恐ろしい病気」と言い立てて不必要な隔離政策を続けたことによって生じた。人権侵害の当事者である政府はそのことを真摯(しんし)に反省しなければならない。
熊本地裁判決には問題もある。沖縄の米統治下の期間に家族が受けた損害については国の責任を認めていないのだ。立法措置を含めた解決策が不可欠だ。
偏見は今も残る。家族訴訟の原告の大半が匿名なのはそのためだ。首相が自ら先頭に立つなどして、ハンセン病は怖い病気ではないと広く啓発し、元患者らの名誉回復に全力を挙げるべきだ。
優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟が全国の地裁、高裁で争われている。誤った国策のせいで人権が蹂躙(じゅうりん)された構図は同じだ。国はこれらの訴訟でも自らの責任を認め、被害者の救済に乗り出すべきだ。政権の人権感覚が問われている。