[ハンセン病家族補償]差別解消へ全力尽くせ - 沖縄タイムス(2019年10月29日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/490430
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ハンセン病元患者家族の補償を議員立法で目指す超党派国会議員グループは、補償額を最大180万円とする補償法案基本方針を正式に決定した。法案にまとめ、開会中の臨時国会に提出する。
6月の熊本地裁判決で認めなかった米軍統治下の沖縄の被害も補償する。隔離政策は米軍統治下でも基本的に継続。国の法的責任が本土復帰の1972年以降に限定されているのは、全国同一基準で補償する「ハンセン病補償法」に反すると指摘する声が上がっていた。
2001年の患者本人訴訟でも同様の判決が示されていたが、議員立法で同一基準が実現した経緯がある。妥当な判断といえよう。
元患者の療養所への入所歴は問わず、熊本地裁が認めていなかった02年以降の被害も補償。戦前の台湾や朝鮮半島に住んでいた家族も対象とした。住んだ地域によって補償に違いがあるのは不合理であり、これも妥当だ。
基本方針で同居を条件におい、めい、孫らにも対象を広げたことを評価したい。
ただ賠償額は納得できるものではない。判決は1人当たり30万~130万円で補償額は上積みされているが、家族らは訴訟で1人当たり550万円を求めていた。就学・就労拒否や村八分、結婚差別などに遭った「人生被害」にとても見合うものではない。
家族には高齢者も多く早期解決を図る必要が背景にあったとみられる。原告団が「この補償でみんなが人生を取り返せるわけではない」との言葉を重く受け止めるべきだ。

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判決を受けて政府は控訴を断念。安倍晋三首相が謝罪する談話を発表した。
法案前文案は、「家族も偏見と差別で多大な苦痛と苦難を強いられてきたにもかかわらず、国会および政府は取り組みをしてこなかった」として「悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびする」と記している。
優生保護法(1948~96年)の被害者救済法では前文を「われわれは」と主語をあいまいにし、国の責任が明確でないと批判されたことを踏まえたものだろう。法案では主語を「国会および政府」と責任の所在をはっきりさせた。家族にも国策の誤りとその責任を認めたのである。
ただ実際に偏見や差別に加担したのは地域の人であり、一般の人たちである。それを忘れてはならない。メディアも助長しており、責任を自覚しなければならない。

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名護市済井出の国立療養所沖縄愛楽園内には、2015年に開館した沖縄愛楽園交流会館がある。同園自治会が中心となってつくり上げたハンセン病の苛烈な歴史を伝える資料館である。米軍払い下げの資材で建てたコンセット病棟が再現され、強制的に断種・妊娠中絶された入所者の証言がつづられている。
人権教育の場としてそこで子どもたちが学ぶ。回復者の話を聞くことも可能だ。
ハンセン病に対する差別や偏見を解消するためには、人権啓発活動を強力に推進するなど、社会全体で取り組まなければならない。