ハンセン病救済 差別解消へ腰を据えよ - 東京新聞(2019年10月26日)

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ハンセン病元患者家族に対する補償法案の概要がまとまった。国の隔離政策の責任を認め救済に向けて一定の決着を見る。今後は、社会に残る差別や偏見の解消を確実に図る対策が急務だ。
元患者家族は今回の補償内容で合意したとはいえ、これまで被った耐え難い人権侵害に比べれば、とても納得できるものではないだろう。それでも救済を前に進めるための決断に違いない。
ハンセン病元患者本人を巡っては二〇〇一年、熊本地裁が隔離政策を違憲と認め国に賠償を命じた。当時の小泉純一郎首相が控訴を断念して謝罪した。
その家族もいわれのない差別や偏見にさらされてきた。元患者と家族として歩む機会を奪われ、就学就職差別、結婚差別など深刻な被害に遭った。
元患者家族への補償に関する議論は、今年六月に熊本地裁が原告である家族への賠償を国に命じ、安倍晋三首相が控訴見送りを表明したことで動きだした。国会の超党派議員グループが進めていた。
法案の前文で主語を「国会及び政府」と明記した。旧優生保護法の被害者救済法でおわびの主語を「我々」とあいまいにしたことで批判を浴びたからだろう。
隔離政策が差別や偏見を助長させたことを踏まえれば、反省とおわびを盛り込み責任の所在を明確化したのは当然だ。
補償額は六月の熊本地裁判決より増額され、対象者も拡大された。一定の救済が実現できることは前向きにとらえたい。ただ、原告の多くは納得したわけではない。政府はそれを忘れるべきでない。
当事者への補償制度の周知も政府の責任だ。差別を恐れて名乗り出られない懸念がある。救済漏れを防ぐ知恵を絞ってほしい。
補償金支給は補償法を立法して対応するが、差別解消を目的とするハンセン病問題基本法も改正し家族を対象に加える。
真の救済は、社会に残る差別や偏見の解消である。原告も最大の課題と位置付けている。政府はこれまでもシンポジウム開催や啓発資料の作成などで努めてきたが十分とは言えない。今も氏名や姿を公表できない家族がいる。意を決して原告に加わった人にもいる事実は重い。
政府はこれまでの取り組みを検証し、問題点を洗い出し実効性ある啓発に取り組む責務がある。
人権侵害のない社会の実現は私たち自身にも課せられていると胸に刻みたい。