中道退潮の欧州議会選 統合に多様な民意反映を - 毎日新聞(2019年5月31日)

https://mainichi.jp/articles/20190531/ddm/005/070/108000c
http://archive.today/2019.05.31-021625/https://mainichi.jp/articles/20190531/ddm/005/070/108000c

第二次世界大戦後に「非戦の誓い」から産声を上げた欧州統合の歩みが足踏みする事態は避けられた。
欧州連合(EU)に加盟する28カ国で計751人の議員を選ぶ欧州議会選があり、統合推進派が3分の2の議席数を維持した。
だが、政治地図は様変わりした。EUをけん引してきた中道右派中道左派の伝統政党が過半数を割った。1979年に直接選挙制となって以来初めての出来事だ。
「加盟国の主権回復」などを求める反EU勢力がフランスやイタリアで勝利し、英国ではEUからの早期離脱を訴える新興の「ブレグジット党」が第1党になった。
しかし、EUの存在意義が否定されたわけではない。離脱を巡る英国の混乱が「反面教師」となり、事前世論調査でEUの支持率は6割超に上った。その結果、反EU勢力の議席増は事前予想を下回った。
顕著になったのは、多党化だ。移民流入地球温暖化自由貿易などグローバル化時代の問題への対応が新旧各党の明暗を分けた。
移民排斥を掲げる右翼政党は有権者の不安をあおって勢力を広げ、環境政党やリベラル派は若年層へのアピールが奏功して飛躍した。伝統政党は対応能力を欠くと判断された。
EUでは長年、欧州委員会のエリート官僚が政策立案で決定的な役割を果たし、加盟国民の意思が反映されにくい、「民主主義の赤字」と呼ばれる弊害が指摘されてきた。
「赤字削減」のため、市民代表である欧州議会の権限が強化されたことが、今回の高投票率につながった面もある。支持が分散した選挙結果は、多様な民意の反映と言える。
課題は、政治の分極化が進む中、いかに意見集約を図るかだろう。
今秋の次期欧州委員長選びを巡っては早くも独仏が対立している。辞任するメイ英首相の後任に離脱強硬派が就けば、「合意なき離脱」の恐れが高まる。団結が必要だ。
意思決定に手間取り、EUが機能不全に陥ってはならない。市民のための政策を実行できなければ、統合への支持が揺らぎかねない。
自国第一主義」が広まるトランプ時代、EUの掲げる自由と多様性の価値観は重要だ。欧州の「壮大な実験」が後戻りしないよう望む。