EU懐疑派 伸長すれど「出口」なし - 東京新聞(2019年5月30日)

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欧州議会選で欧州連合(EU)懐疑派が伸長した。しかし、EU不信をあおる懐疑派の主張からは、将来へのビジョンは全く見えない。EU離脱で立ち往生する英国の轍(てつ)を踏んではなるまい。
欧州議会は、閣僚理事会と共同での立法権や欧州委員らの承認権を持つ。定数七五一で、加盟全二十八カ国ごとに選挙を実施した。
親EUの中道右派中道左派の二大勢力の合計議席が初めて半数を割り込む一方で、緑の党や新興リベラルなどが躍進し、親EU派が議会の主導権を握る状況に変わりはない。
しかし、欧州議会でEU懐疑派が三割を超えるのは初めてだ。フランスの極右「国民連合」、イタリアの極右「同盟」はともに国内第一党に躍進。ドイツでは反移民・反EUの右派「ドイツのための選択肢」が票を伸ばした。
EU離脱を決めながらも実現できないままの英国も、今回の選挙に参加した。新造の離脱党が英国配分議席の約三割を獲得し、メイ首相の与党、保守党に20ポイント以上の差をつけた。
「人々の勝利」「権力を取り戻す」「欧州は変わらなければならない」。勝利宣言したEU懐疑派の文句は威勢がいい。
しかし、三年前を思い起こしてほしい。当時、英国独立党党首だったファラージ離脱党党首らが移民の脅威などをあおり、国民投票では離脱支持が多数を占めた。
しかし、離脱の手順、紛争再燃の恐れもある英領北アイルランドの国境管理など入り口の問題にすら解決策が見いだせず、三月末だった離脱期限を十月末まで延期。メイ首相は退陣表明に追い込まれた。展望もなく、「合意なき離脱」が国際社会に不安を広げる。
EUへの不満として、「民主主義の赤字」が指摘される。同質な「欧州国民」なくして民意は存在しないという。官僚らが決定するEUではなく、主権国家である加盟国のほうに正当性がある、とのEU懐疑派の主張だ。
加盟国とEUは本来、対立するものではない。各国が領土や秩序の保全、EUが金融政策などの権限を持つ一方で、産業、環境、エネルギーなど地域の安定に関わる権限の多くは各国とEUが共有する。このバランスを具体的に考えていくことが、EUへの不満解消につながるのではないか。
欧州議会選は各国の政治動向にも影響する。離脱の夢を振りまいた英国は苦闘している。EU懐疑を乗り越える欧州の良識を望む。