ドイツ総選挙 寛容社会を守ってこそ - 東京新聞(2017年9月27日)

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ドイツ総選挙でメルケル首相が続投を確実にした。反難民の新興右派政党が第三党となり国政に進出する中での四期目となる。寛容な社会、人権など欧州の価値観を、毅然(きぜん)として守り抜いてほしい。
メルケル氏の保守、キリスト教民主・社会同盟が第一党、ライバルながら現在大連立を組む中道左派社会民主党は第二党の座を守った。保守と小政党による連立を模索するが政策の隔たりが大きく、大連立継続の可能性も残る。
難民への寛容政策に対する批判で、いったんは窮地に立たされたメルケル氏の支持率を回復させたのは皮肉にも、差別的な発言を繰り返して、米国第一主義を主張するトランプ米大統領だった。
自由、民主主義など欧米が重視してきた価値観の守り手として、メルケル氏への期待は高まった。首相十二年間の実績への信頼も厚かった。脱原発政策などで、環境政党、90年連合・緑の党の支持層も取り込んだ。
しかし、不満も強く、二大政党は大幅に議席を減らした。代わりに受け皿となったのが、反難民の新興右派政党「ドイツのための選択肢」。連邦議会(下院)七百九議席中、九十四議席を獲得した。
ユーロ反対を訴えて設立したが、反イスラム、寛容政策批判で勢いを得た。党幹部が、ベルリン中心部のホロコースト犠牲者慰霊碑を「恥の記念碑」と呼ぶなど、極右的な体質が見え隠れする。
他党から相手にされないため政治的影響は限られるだろう。しかし、人種や宗教による差別的姿勢を隠さない不寛容な政党が一定勢力を持ったことに、社会を変質させかねないとの危機感も強まる。
ナチスへの反省を踏まえた寛容で多様な社会づくりこそ、戦後ドイツが国是としてきたものだ。移民や難民と共存していく知恵を絞り、「選択肢」の過激化や勢力拡大に歯止めを掛けてほしい。
「選択肢」支持の背景には、欧州連合(EU)への不信もある。英国の離脱決定で官僚主義などの不備があぶり出された。難民問題への対応を巡る加盟国間の不協和音も目立つ。EU再建に、メルケル氏がさらにリーダーシップを発揮するよう望みたい。
メルケル氏が任期を全うすれば在任十六年となり、ドイツ統一を果たしたコール首相と並ぶ。国際社会をもリードする存在となった。米国の威信が低下する中、北朝鮮、シリアなどの難題打開へもイニシアチブを発揮してほしい。