県性被害条例 検証が無理なら見直しを - 信濃毎日新聞(2019年10月5日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191005/KT191004ETI090008000.php
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「県子どもを性被害から守るための条例」違反の疑いで書類送検されていた東御市の20代男性について、地検上田支部は、不起訴処分とした。
2016年の全面施行以降、深夜(午後11時〜翌午前4時)に18歳未満を正当な理由なく連れ出すなどした外出の制限違反で5件5人が摘発、4人が略式起訴されている。不起訴は初めてだ。
心の内に踏み込むことで冤罪(えんざい)を生む恐れが指摘される条例である。捜査機関からの情報が乏しく運用の検証も十分されていない。検察が起訴せず裁判所に判断を任せなかったのはなぜかを検証し、明らかにする必要がある。
男性は昨年7月の深夜、SNS(会員制交流サイト)で知り合った県外の10代女性を、保護者の同意がないのに自宅に滞在させた疑いが持たれた。
不起訴には、犯罪事実がない「嫌疑なし」、有罪を証明するのが困難な「嫌疑不十分」、犯罪の軽重や容疑者の状況を考慮し検察官の裁量で起訴を見送る「起訴猶予」の3種類がある。地検は今回の処分がどれに当たるかを明らかにしていない。
県警の捜査に問題はなかったか、送検すべきほどの事案だったのか。県は、不起訴の連絡もなかったとし、警察の介入の妥当性は「検証しようがない」とする。
条例は、恋愛でも処罰対象になりかねず、子どもの自由を過度に制約するといった批判もあり、運用の危うさが問題になっている。
全面施行時、県弁護士会は「起訴、不起訴にかかわらず、処罰規定違反の容疑で捜査権を行使した全ての事案について、内容に踏み込んで乱用がないかをチェックすべきだ」と会長声明を出した。
阿部守一知事は、施行前の記者会見で「われわれには条例を作った責任がある。県警の持っている情報を極力共有し、条例の適正運用に努める」と述べている。
ならば、不起訴となった今回こそ検証は必要だ。子どもの被害感情や男性の言い分はどうだったのか、略式起訴された4人との違いは何か。県警の情報を共有し、県が設ける子ども支援委員会や県青少年問題協議会の場で、改めて議論すべきだ。
全面施行から間もなく丸3年を迎える。摘発された1人は略式起訴後に「相手が嫌がることは一切していない」と言葉を残して自殺した。「検証しようがない」状況を放置しておいていいのか。検証は無理と言い切るなら、条例そのものの見直しを図るしかない。