(余録) イノセンス・プロジェクトはDNA鑑定で… - 毎日新聞(2019年3月29日)

https://mainichi.jp/articles/20190329/ddm/001/070/129000c
http://archive.today/2019.03.29-021837/https://mainichi.jp/articles/20190329/ddm/001/070/129000c
イノセンス・プロジェクトはDNA鑑定で冤罪(えんざい)を晴らす活動をする米国のNPO団体という。その集計によると、無実が立証された人々の25%以上がやってもいない犯行の自白や有罪申し立てをしていたのだ。
自白を「証拠の王」とする危険を物語る数字だろう。では日本の警察や検察が一度得られた自白に反する証拠を手にしたらどうするのか。自白の信用性が傷つかぬよう、反証を抱え込んでおく--それがこの事件での「答え」だった。
34年前に熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城(うき)市)で起きた殺人事件をめぐり、懲役13年の判決を受けて服役した宮田浩喜(みやた・こうき)さんの再審で殺人罪の無罪判決が言い渡された。認知症で高齢者施設に入っている85歳の宮田さんの姿なき法廷でのことだ。
捜査段階の自供が有罪の唯一の証拠となったこの事件である。だが判決確定7年後に弁護団が検察に開示させた証拠には自供を覆す物証があった。その後の再審請求から3年前の再審開始決定、きのうの判決までの長い道のりだった。
近年の法改正で公判では検察に全証拠のリスト開示が義務づけられた。だが再審請求段階の規定はなく、昨年の二つの再審開始決定では裁判官が検察に強く促した証拠開示で自白の信用性を覆す証拠が出た。今も続く証拠の私物化だ。
「無罪」を伝えたヘルパーさんの笑顔に、病身の宮田さんの表情が変わることはなかった。物証が物語る冤罪を晴らすのにかかった気の遠くなるような歳月。その重さが示す自白偏重の司法の「罪」である。