ゴーン被告保釈 勾留のあり方見直す時 - 朝日新聞(2019年3月7日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13922023.html
http://archive.today/2019.03.07-010428/https://www.asahi.com/articles/DA3S13922023.html

会社法違反などの罪で逮捕、起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が保釈された。裁判所、検察官、弁護人の三者で争点や主張を整理する手続きが、まだ進んでいない段階での異例の措置だ。
前会長の身体拘束がいつまで続くかに注目が集まり、外国メディアからは日本の刑事司法に対する批判も出ていた。
そこには誤解や偏見も少なからずあったが、否認を続けると拘束が長くなるのはデータからも明らかだ。長く自由を奪うことで精神的に追いつめ、争う意欲を失わせる手段として、捜査当局が勾留手続きを利用してきたのは紛れもない事実だ。
人質司法と呼ばれるこうした悪弊は、もっと早く是正されてしかるべきだった。しかしそれは果たせなかった。関係者はその教訓と責任を胸に、今回の事件を勾留実務の改革に結びつける契機にしてほしい。
素地はある。勾留は、容疑者や被告が逃亡したり、証拠を隠滅したりするのを防ぐのが目的だ。その恐れがあるという検察側の主張を、裁判所は概して安易に認めてきたが、裁判員制度の導入を受けて、近年変化が見られるようになった。
争点を明確にし、市民にわかりやすい審理を行うには、被告の拘束を早めに解き、弁護人と十分な準備をさせることが必要だという認識が広まったのだ。最高裁が14年秋に、証拠隠滅について、単なる恐れではなく、現実的可能性があるか否かを厳格に判断すべきだとの判断を示したことも後押しした。
今回の決定もこうした流れの延長にある。それでも、必要性に乏しい勾留が依然として行われているとの指摘は強い。法律家とりわけ裁判官には、個々の事件にしっかり向き合い、精査する姿勢が求められる。
新たな論点も浮上した。
前会長の弁護人は、事件関係者との接触禁止に加え、住居への監視カメラの設置や、電話やパソコンの利用制限などを提案し、裁判所はそれらを条件に保釈を認めた。証拠隠滅を防ぐ新たなアイデアで、拘置所に留め置かれるのに比べれば、前会長の負担は小さいだろう。
だがプライバシーや行動の自由を相当制限するもので、今後のスタンダードになったら、それはそれで問題だ。こうした設備や環境を用意できる富裕層だけに適用される恐れもはらむ。一方で検察側からは、早くも実効性を疑う声があがる。
どんな場合に、いかなる条件をつけるか。知恵を出し合い、納得性を高めることが必要だ。