ゴーン前会長 勾留の在り方も議論を - 東京新聞(2019年1月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019010902000158.html
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「無実だ」と日産自動車のゴーン前会長が述べた。不当な勾留だとも。特別背任事件の最中に勾留理由開示手続きで法廷に立った。身柄拘束の在り方について、議論する契機にすべきであろう。
勾留理由開示は、憲法刑事訴訟法に定めのある制度である。例えば憲法三四条は、要求があれば、(勾留の)理由を公開の法廷で示さねばならないとする。
だが、二〇一六年度の司法統計では勾留状の発付は約十万九千件だったのに、勾留理由開示請求が行われたのは、わずか約七百件にすぎない。たったの0・6%である。弁護士が消極的なのは、その手続きをしても効果がないと思われているからであろう。
確かに裁判官は法廷で勾留状に書かれた理由を読み上げるだけに終わる。ゴーン容疑者に対しても「関係者に働きかけて罪証隠滅すると疑うに相当する理由がある。国外に住居があることから、被疑者が逃亡する疑いもある」と裁判官は述べた。
証拠隠滅と逃亡の恐れ−。大半の事件で二つのキーワードが使われ、それを理由に身柄拘束が解かれることはない。だが、あまりに安易に用いられすぎてはいないか。例えば、昨年十二月に中国の通信機器メーカー・ファーウェイの副会長がカナダで逮捕された事件と比較してみよう。
米国の要請による逮捕だったが、保釈は約十日後。保釈金は八億五千万円で、副会長はパスポートを取り上げられ、衛星利用測位システム(GPS)機器も身に着けさせられた。居場所が追跡・特定される。これでは逃亡もできはしまい。事件関係者との会話・通話などを禁止すれば証拠隠滅の恐れもなくなろう。
日本でも一四年の法制審議会の特別部会で、居住先の特定など身柄拘束しないで捜査する「中間処分制度」の創設が議論された。だが、警察・検察などの反対で一蹴された経緯がある。
「ゴーン事件」によって、海外メディアが一斉に日本の刑事司法の問題点を指摘した。もう一度、謙虚に身柄拘束の在り方を再考してみてはどうか。
「容疑はいわれないものだ」「日産には損害を与えていない」−。法廷でゴーン容疑者が主張した言葉は、検察のストーリーと対立する。事件が法律論の争いになる要素もあろう。全面無罪の具体的な主張がある以上、検察側が描く筋書きを鵜呑(うの)みにせず、冷静に事件を見つめたい。