【私説・論説室から】失われた古里 - 東京新聞(2019年2月20日)

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福島の大事故からまもなく八年。次の扉を開こうとする音かもしれない-と耳をそばだてた発言が経済人から続いた。
一人は原発メーカー日立製作所の会長でもある中西宏明経団連会長。
「国民が反対するものはつくれない」
「全員が反対するものを…無理やりにつくるということは、民主国家ではない」
年初のインタビューでそう述べて原発、エネルギー政策に国民的な討論を求めた。
そして経済同友会、小林喜光代表幹事の二月初めの記者会見。
「あの時点からテクノロジー、経済性という意味で相当変化してきた。(原発の発電コストは)一キロワット五円などといわれたが、気が付いてみると十円を超えている。一方で太陽光は十円以下という国もある」
原子力を使わないにしろ、原子炉は四十基以上ある。廃炉産業は人類にとって重要で、次の産業として成り立つ」
エネルギー資源を求めた戦争のあげくに広島、長崎を経験し、その原子エネルギーを資源にと試みて大切な古里を失った。
あれから八年。デジタル革命で世界は未知の領域にある。多くの国民が反対する原発に拘泥して次の扉を開けなければ、産業も経済も立ちゆかなくなる。二人の発言は局面変化の証しと思いたい。もしそうなら、脱原発はそこまできているのかもしれない。(安田英昭)