いじめ自殺判決 悲劇招かぬ想像力を - 東京新聞(2019年2月20日)

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大津市の中学二年男子生徒=当時(13)=のいじめ自殺について、大津地裁は「いじめが自殺の原因。加害者は生徒の自殺を予見できた」という判断を下した。悲劇を招かないような想像力を育てたい。
いじめをめぐる訴訟で「予見可能性」が認められたのは、一九九四年に神奈川県で起きた中二男子生徒いじめ自殺の判決などがあるものの、立証へのハードルは高く、否定される判例が多かった。
大津の生徒は二〇一一年十月、自宅マンションから飛び降りた。大津市教育委員会は当初、生徒が元同級生からいじめを受けていたとしつつ「自殺との因果関係は不明」と説明した。
遺族は一二年、市と元同級生三人を提訴。市の第三者調査委員会(弁護士や学識者)が「自殺の直接的要因は、いじめ」と結論付けると、市は一転因果関係を認め、一五年に遺族と和解した。
元同級生側は、生徒の口の上にハチの死骸を乗せるなどの行為は「遊びの延長で、いじめとの認識はない。自殺の原因は別にある」と主張して裁判を続行、判決を迎えた。刑事捜査で滋賀県警は三人を暴行などの容疑で書類送検大津家裁は二人を保護観察処分、一人を不処分としている。
この日の判決は「元同級生二人の連日の暴行から、生徒は死にたいと望むようになった。他の原因はない」といじめの存在や自殺との因果関係を認めた。
その上で「こうした行為の積み重ねは、一般に自殺の予見が可能な事態だったといえる」とも指摘し、元同級生三人のうち二人に損害賠償約三千七百五十万円の支払いを命じた。生徒の父親は、判決を評価し「被害者が司法救済を受けられる仕組みづくりを急いでほしい」と語った。
この事件をきっかけに制定された「いじめ防止対策推進法」は、心身への重い被害や長期欠席を「重大事態」とし、「国や地方自治体への報告」を学校に義務付けた。インターネットを通じたいじめの監視強化も盛り込んだ。
しかし、法律ができても、いじめはなくならない。文部科学省によると一七年度、全国の小中高などでのいじめ認知件数は四十一万余件で過去最多。「人が集まればいじめは起きる」という前提に立った方がいい。「根絶」を唱えるのではなく、いじめ被害が深刻な悲劇にまで発展しないように「被害を隠されない仕組み」や「いじめからの逃避を認める社会」づくりへの知恵を絞りたい。