【論説】いじめ対応検証 信頼関係の再構築急げ - 山陰中央新報(デジタル2021年12月16日)

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いじめを受けた児童生徒の自殺や不登校など「重大事態」を巡り、第三者委員会を設置して調査を行う学校・教育委員会と、被害者側との対立が絶えない。各地で被害者側からは「第三者委の人選が公平・中立ではない」「子どものSOSを見逃した上に事後の検証も情報提供も不十分」など反発する声が相次ぎ、混迷は深まるばかりだ。

文部科学省は重大事態調査の指針で「被害者や保護者の事実関係を明らかにしたい、何があったのかを知りたいという切実な思いを理解し、対応に当たること」を求めている。しかし実際には被害者側の意向を全く顧みないまま調査を進めるなど指針違反とみられる対応が少なからずある。

このため文科省は、都道府県と政令市で調査がどのように行われ、被害者側に調査内容が適切に説明されているかなどを検証し、来年3月までに改善策をまとめたいとしている。一方で深刻な対立が見られるケースでは学校・教委の担当者らと面談し、初期対応を検証するよう指導したり、指針に沿って調査を進めるよう求めたりしている。

しかし状況が好転する気配はない。原因の一つとして、教育現場の「事なかれ主義」も指摘されている。学校・教委が被害者側に寄り添うといういじめ対応の基本を再確認し、徹底すべきだ。真相解明で互いに協力し合えるよう、信頼関係の再構築を急ぐ必要がある。

大津市で2011年10月、市立中2年の男子生徒が自殺。学校や市教委は「いじめとの因果関係ははっきりしない」としたが、後に調査がずさんだったことが分かり、批判が渦巻いた。これをきっかけに13年9月、いじめ防止対策推進法が施行され、重大事態を巡り学校や教委が第三者組織で調査し、被害者側に情報提供するよう定めた。

以来、いじめ事案の調査で第三者委は欠かせない存在になっている。しかし各地で、その第三者委と被害者側との関係がぎくしゃくしている。

東京都町田市で昨年11月、いじめを訴える遺書を残して小6女児が自殺した。市教委は常設のいじめ問題対策委で今年3月に、ようやく調査を始めたが、遺族は「学校や市教委から十分な説明がない。委員が選ばれた経緯もはっきりしない」と反発。対策委は遺族の協力を得られずに調査を打ち切り、代わって市の第三者委が11月下旬から調査をやり直している。

北海道旭川市では3月、中2女子が凍死しているのが見つかり、道教委は「客観的に見て、いじめが疑われる」とし、市教委に詳しく調査するよう指導した。だが市教委はいじめと認めず、遺族側から「いじめをもみ消そうとしているようにさえ見える」と非難する手記が公開されている。

長崎市の私立高2年の男子が17年4月に自殺した問題では、昨年11月になり、学校側がマスコミ対策として「突然死ということにしないか」と遺族側に持ち掛けていたことが明るみに出ている。

詳しい説明がないとの遺族の抗議で第三者委が解散し、再調査で、いじめとの因果関係が認められるまで自殺から5年以上かかった例もある。学校・教委の担当者のメンツや保身で初期対応が後手に回り、調査の長期化などによって被害者や遺族を何度も傷つけることになるという事実を教育現場は重く受け止め、襟を正すよう求めたい。