記者会見の質問 知る権利を守るために - 東京新聞(2019年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019021902000183.html
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記者会見での記者の質問は、国民の知る権利を守るために、報道機関として当然の行為だ。権力側が、自らに都合の悪い質問をする記者を排除しようとするのなら、断じて看過することはできない。
なぜ今、こうしたことに言及せざるを得ないのか、経緯を振り返る必要があるだろう。
発端は本紙記者が昨年十二月、菅義偉官房長官の記者会見で、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設について「埋め立て現場では今、赤土が広がっており、沖縄防衛局が実態を把握できていない」と質問したことだ。
首相官邸の報道室長は官邸を取材する報道機関でつくる「内閣記者会」宛てに文書で、質問を「事実誤認がある」「度重なる問題行為」とし「事実を踏まえた質問」をするよう申し入れた。
また報道室長はたびたび、本紙記者が質問している途中に「質問は簡潔にお願いします」などと催促したり、遮ろうとしている。
しかし、質問は本紙の取材、報道による事実関係に基づいたものであり、決して誤認ではない。
もし、政府が事実誤認と考えるなら、会見の場で事実関係を提示し、否定すれば済むだけの話だ。
菅氏は国会で「会見の様子は配信され、国内外で直ちに視聴できる。事実に基づかない質問が行われると、内外の幅広い視聴者に誤った事実認識が拡散される」と答弁したが、政府の反論が正しければ、誤った事実認識が拡散されることはないのではないか。
憲法は「表現の自由」を基本的人権の一つとして、国民の「知る権利」を保障している。
官邸報道室は申し入れに「質問権や知る権利を制限する意図は全くない」としているが、政府に都合の悪い質問をしないよう期待しているのなら見過ごせない。
申し入れがあっても、質問を制限されないことは、知る権利を尊重する立場からは当然だ。
菅氏はかつて会見で安倍晋三首相の友人が理事長を務める加計学園獣医学部新設を「総理の意向だ」と伝えられたとする文部科学省文書を「怪文書みたいではないか」と語ったことがある。
その後、文書は存在することが分かった。政府が常に正しいことを明らかにするとは限らない。一般に権力は、都合の悪いことは隠すというのが歴史の教訓である。
権力を監視し、政府が隠そうとする事実を明らかにするのは報道機関の使命だ。私たち自身、あらためて肝に銘じたい。