官邸の質問制限 国民の知る権利の侵害だ - 琉球新報(2019年2月19日)

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不都合な事実を隠す政府の姿勢を象徴する出来事だ。
首相官邸が昨年12月、東京新聞の特定記者の質問を「事実誤認」などとして、内閣記者会に対し「正確な事実を踏まえた質問」をするよう文書で申し入れた。
これに対し新聞労連は今月5日、「官邸の意に沿わない記者を排除するような今回の申し入れは明らかに記者の質問の権利を制限し、国民の『知る権利』を狭めるもので、決して容認できない」と抗議した。当然の指摘である。
事の発端は東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者の質問である。望月記者は名護市辺野古の新基地建設に向けた埋め立て工事の土砂について菅義偉官房長官に会見で「現場では赤土が広がっている」「埋め立てが適法に進んでいるか確認ができていない」と述べ、赤土の可能性について尋ねた。
この質問に官邸は、埋め立て区域外の水域への汚濁防止措置を講じていると主張し「表現は適切ではない」として正確な事実を踏まえた質問をするよう求めた。
だが望月記者の質問には合理的な理由がある。土砂に含まれる赤土など細粒分の含有率について政府は昨年12月の参院外交防衛委員会で「おおむね10%程度と確認している」と説明したが、実際には「40%以下」に変更されていたことが判明した。このため県は環境に極めて重大な悪影響を及ぼす恐れがあるとして立ち入り調査を求めているが、沖縄防衛局は応じていない。
県の立場から見れば「適法に進んでいるか確認ができていない」のである。官邸が質問の内容を否定するのなら、含有率について詳細を公開し、堂々と県の調査を受け入れるべきだ。
記者会に文書を出すまでもなく、会見の場で情報を公開し、記者が納得するまで説明を尽くせば済む話である。それが政府の当然の責務だ。記者に非があるかのような指摘は明らかに筋違いである。事実が明確でない情報について記者が質問する事例はよくあることだ。
質問を制限するかのような文書を記者会に出した行為は望月記者を狙い撃ちにし、質問を封じる取材妨害と言われても仕方がない。実際、望月記者は「文書は私や社への制止的圧力だ」との見解を示している。
この高圧的な政府の対応は、度重なる県の申し入れや確認を無視し、辺野古の埋め立てを強行している姿勢と重なる。辺野古新基地へのオスプレイ配備計画や大浦湾側の軟弱地盤の存在など、隠していた事実が後に判明した事例は枚挙にいとまがない。現政権は国民の知る権利に不誠実と言わざるを得ない。
報道機関は憲法が保障する国民の知る権利の奉仕者である。記者会への官邸の申し入れはその権利を侵害する行為だ。これによって記者が萎縮し厳しい質問を控えることは断じてあってはならない。