社会復帰へ「Chance」を!! 受刑者を求人誌で支援 - 東京新聞(2019年2月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000108.html
https://megalodon.jp/2019-0218-0920-55/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000108.html

全国の刑務所に届けられる受刑者向け求人情報誌がある。まもなく創刊一年を迎える「Chance(チャンス)!!」だ。編集長の三宅晶子さん(48)は中学時代から非行を繰り返し、紆余(うよ)曲折の半生を送ってきた。「絶対にやり直す」と誓う受刑者の社会復帰を後押ししている。 (木原育子)
「全社身元引き受けOK」「全社寮完備」。来月一日から配布予定の春号では建設、飲食など全国二十一社を紹介。各社の代表者が「本気でやり直したい人を応援します」などのメッセージを寄せている。
「どんな人でも必ず自分の過去を価値に変えられる」。「不良少女だった」と振り返る三宅さんは自らの経験を重ねる。三宅さんは新潟市出身。酒、たばこ、万引、ケンカ…。中学時代、銀行に勤める厳格な両親に反発した。高校は五カ月で退学処分を受けた。「私なんてどうでもいいでしょ」。両親に逆らうことで自分が生きていることを確かめているようだった。
飲食店に就職してまもなく、店に訪ねてきた父親から一冊の本を勧められた。「我思う、ゆえに我あり」で知られる哲学者デカルトの主著「方法序説」だ。読破しようと試みたが、理解できない。「学び直そうかな」。再び高校に入学し、二十歳で卒業した。
早稲田大第二文学部を経て、大手商社に就職した。だが、もっと人に関わる仕事がしたいと、二〇一四年に退社。人材育成の分野で再就職を目指す中、受刑者を支援する団体の活動に参加した。
そこで直面したのは、犯罪・非行歴のある人たちの社会復帰が容易でなく、再犯に手を染めてしまう現実だった。暗闇の中で必死に居場所を探す姿は、若いころの自分を見ているようで苦しかった。
「生き直す手助けがしたい」。一五年、受刑者らの就職や教育を支援する「ヒューマン・コメディ」(東京都豊島区)を設立した。社名は、大好きな米作家ウィリアム・サローヤンの本のタイトルからとった。そして昨年三月に「Chance!!」を創刊し、編集長に就いた。受刑者向け求人情報誌は日本初だった。
「Chance!!」は、昨年春、夏、秋、冬の四号を発行。刑務所だけでなく、少年院にも届けている。これまで延べ六十社以上の求人情報を掲載。受刑者ら約七十人から応募が寄せられ、このうち二十九人が採用された。さらに求人を掲載する企業を募っている。
受刑者らは専用の履歴書に犯罪・非行歴、再犯しないための決意や具体策などを記入。希望する就労先の社名を書き、「ヒューマン・コメディ」に送付する。施設を出た後、すぐに仕事を始められるよう刑務所や少年院、拘置所内で面接を受けることができる。
「こんな俺でもやり直せるのか」。「Chance!!」を手にした受刑者らからの手紙は、問い合わせや人生相談も含めて二百人分を超えた。三宅さんは一人一人に返事を書いている。「いくらでもやり直せる。後戻りせず、一緒に前に進もう」と。

◆再入所者の7割が無職 再犯防止へ就労先課題
刑務所などを出ても、帰る場所や仕事がなければ再犯につながりやすく、悪循環に陥ってしまう。就労確保が課題になっている。
法務省によると、刑務所に再入所した人のうち、再犯時に仕事がなかった人の割合は約七割。仕事がない人の再犯率は仕事がある人の約三倍に上るという。
出所者らの就労を支える「協力雇用主」は全国約二万社が登録。しかし、実際に出所者らを雇用している事業主は約九百にとどまる。法務省は就労奨励金などの制度を設け、幅広い業種の事業主に登録を呼び掛けている。同省のコレワーク(矯正就労支援情報センター)は事業主に向け、雇用ニーズと合った人がいる矯正施設を紹介し、採用手続きを支援している。