(大弦小弦) 港に停泊中の米軍艦船へ忍び込み、干してある毛布を… - 沖縄タイムス(2019年1月25日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/376983
https://megalodon.jp/2019-0125-0932-53/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/376983

港に停泊中の米軍艦船へ忍び込み、干してある毛布をかっぱらい、体に巻いて泳いで来た若者は自慢げに言った。「3枚だと重くて沈むが、2枚なら平気」

▼監視の目をかいくぐり、物資置き場の米俵を担いで川を渡り、帰還した少年は「8人家族、しばらくは飢えをしのげた」と言い、サンゴのかけらで米俵に穴を開けて抜き取るご婦人も多くいたと懐かしむ

▼「庶民がつづる沖縄戦後生活史」(1998年、沖縄タイムス社刊)には、戦後間もない貧しい頃、米軍基地内から物資を奪う「戦果アギヤー」の体験談が誇らしく、時にはユーモラスに明かされている

▼あの時代、程度の差こそあれ、誰しもが生きるために「戦果」を渇望し、「アギヤー」は欠くべからざる存在だった。そんなウチナーンチュの原体験を元にした小説「宝島」が直木賞に選ばれた

▼厳密に言えば「戦果アギヤー」はれっきとした泥棒。それを作者の真藤順丈さん(41)は「戦争や時代に奪われたものを自らの手に奪い返す」という人々の尊厳を懸けた行為と捉えた

▼ウチナーにとって奪われたものとは何か。土地であり、幸せな暮らしであり、かけがえのない命だった。それらを取り戻し、守りたいという一途な思いは、辺野古埋め立てを巡る歴史に連なり、現代の戦果アギヤーとしての相克に思えてくる。(西江昭吾)