(放送芸能) 隠されたDVの恐怖 映画「ジュリアン」あす公開 グザビエ・ルグラン監督 - 東京新聞(2019年1月24日)

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離婚した両親に翻弄(ほんろう)され、家庭内暴力(DV)におびえる少年を描いたフランス映画「ジュリアン」が二十五日、公開される。グザビエ・ルグラン監督(39)は「テーマはDV。第三者には分かりづらい細部を描くことで、観客に新しい視点を示したかった」と狙いを語る。作中には、日本でも導入が議論されている離婚後の「共同親権」の制度も登場。親権のあり方について考える機会にもなる。 (酒井健
両親が離婚し、母ミリアム(レア・ドリュッケール)らと暮らし始めた十一歳の長男ジュリアン(トーマス・ジオリア)。家庭裁判所は離婚調停で、父母双方に親権を認める「共同親権」と、別れた父アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とジュリアンが隔週末に会うことを決める。
二人が会う場所は、父の実家や屋外。ジュリアンは会うたびに、執拗(しつよう)に母子の住所を聞かれるが、母をかばって答えない。父はいらだちを募らせ、脅迫的な言動をエスカレートさせていく。
「男が権利を利用し、妻を取り戻そうするプロセスを、子どもの視点から描いた」とルグラン監督。直接の暴力だけでなく「嫌がらせや圧力が、相手を追い込んでいく心理的な過程も示した。DVを受けた女性が、報復を恐れる心情も知ってほしい」と訴える。
冒頭に描かれる離婚調停では、自分たちへのDVがあったと主張し、単独親権を求める母親側と、否定する父親側が争う。結果として母親側が負け、共同親権と父子の隔週の面会が認められる。フランスでは「離婚調停の数が多く、子どもの将来を決める重要な判決で、判事は二十分ほどで結論を出さなければいけない」とルグラン監督は説明。「国がもう少し予算を投入すれば、踏み込んだ事実の調査なども行えるのでは」とも望む。
離婚後の単独親権を定めている日本と異なり、フランスでは共同親権が原則。ジュリアンの父も、家裁の決定を盾に、強い態度に出てくる。
ルグラン監督は共同親権について「フランスでも賛否がある」とした上で「子どもは父母の愛情を受けて育つべきだから、基本的には賛成」との立場だ。その上で「夫婦間の暴力も、間接的に子に被害を及ぼす。証拠が残りにくい心理的なハラスメントもある。子の成長に良い結果をもたらすか、ケースごとに考察されるべき問題だ」と考える。
二〇一七年のベネチア国際映画祭で監督賞に輝いた。抑圧され、言葉少ななジュリアンを演じるジオリアは、撮影当時は十四歳。オーディションで抜てきしたルグラン監督は「時には顔いっぱいで、時にはまなざし一つで内面を表現してくれた」と絶賛する。「(第三者には)隠されたDVの細部を描いた。理解を深めてほしい」と願う。