真藤さん直木賞 文学で直視する「沖縄」 - 東京新聞(2019年1月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019011902000166.html
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沖縄の戦後を描いた小説「宝島」が直木賞に決まった。東京出身ながら「沖縄問題」を直視し、日本人全員が自らのこととして捉えるべきだと説く作者の真藤順丈(しんどうじゅんじょう)さん。受賞を祝福したい。
物語は戦後の一九五二年、米軍統治下の沖縄を舞台に始まる。主人公は、生きるために米軍基地から物資を奪う孤児たち。ある時、リーダーがいなくなり、残された三人は警官や教師、テロリストとして別々の人生を歩み始める。
三人が織りなす鮮烈な青春の群像。その行動と心情を、時には霊媒師のように、時には「島唄」のように伝える語りの巧みさ。
文芸評論家の清水良典さんが「戦後沖縄を描く社会派小説の構えでありながら、神話か叙事詩のような格調を帯びる」と評する通り、これから読む人には沖縄への先入観を排し、まずは文芸作品としての魅力を味わってほしい。
しかしながらやはり、本作の真価は、沖縄の戦後史を真正面から見すえる点にあるといえよう。
教師になった主役の一人が勤め先で遭遇する米軍機の墜落と子どもたちの悲惨な焼死は、一九五九年に実際に起きた宮森小学校米軍機墜落事故が下敷き。また米兵による六歳女児の暴行殺害事件(五五年)や、米軍基地の毒ガス漏れとその隠蔽(いんぺい)(六九年)など沖縄の辛酸を象徴する史実が、主役たちの人生にからめて詳述される。
作中の人物が憤るのは、米国に沖縄を差し出して「追従を重ねるだけの日本(ヤマトゥ)」だ。「沖縄問題」とは実は「日本の問題」なのだと気づかされる読者もいるだろう。
「沖縄にルーツを持たないことに葛藤があり、途中で書けなくなった」と振り返りつつ「批判が出たら矢面に立とうと覚悟を決め、全身全霊で小説にした」と語る真藤さん。熱意が実っての受賞だ。これを機に、沖縄の出身ではなくともその歴史と現状に目を向ける作家や表現者が続いてほしい。
また、本作を読んだ人はこれを機に、いずれも芥川賞受賞者の大城立裕、又吉栄喜目取真俊の三氏ら沖縄の作家の創作も読んでみてはいかがだろう。
特に目取真氏はカヌーで辺野古(名護市)の海に出て、埋め立て工事に体を張って抗議している。自身のブログ「海鳴りの島から」は、住民の反対を圧殺する政府への鋭い批判に満ちている。沖縄戦の死者をめぐる「水滴」など優れた小説と合わせ、現実と格闘する作家の精神に触れてみてほしい。