(筆洗)遺伝子を改変した双子の女児が誕生 - 東京新聞(2019年1月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019012302000154.html
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米航空宇宙局(NASA)が二〇一一年におもしろい発表をしている。題名は「NASA研究者が選んだ科学的にもっともらしいSF映画ベスト・ワースト」
ベスト部門一位は米映画の「ガタカ」(一九九七年)である。遺伝子の改良によって知能、体力、容姿を向上させた新人類が支配する未来を描いている。遺伝子操作を受けていない人間は「不適正者」として差別され、なりたい職業にもつけない。
現実的というNASAの見立てが的中するのか。中国広東省でゲノム編集によって遺伝子を改変した双子の女児が誕生したという。
世界で初といえども倫理、安全面で批判のあった研究である。研究者は功名心でやったと言うが、あまりにも軽々しく神の扉を開けてしまったのではないか。
ゲノム編集で難病を治療する。これは理解できるし、期待もある。だが生殖細胞をゲノム編集で改変できるとなれば、人はいずれ、ある欲求を抑えられなくなるだろう。ゲノム編集で生まれてくるわが子を頭脳優秀で運動能力も高く美しい子に。デザイナーベビーである。
誰もが自分の能力や姿に不満があろう。がまんしているのは神様が決めたことだからである。それを人が書き換える。その神の扉の先に待つのは優良な遺伝子だけが生存すべきだという優生学的思想と差別ではないか。科学的にもっともらしいあの映画の世界である。