強制不妊の実態解明 精神学会が自己検証へ - 毎日新聞(2019年1月5日)

https://mainichi.jp/articles/20190105/k00/00m/040/160000c
http://archive.today/2019.01.05-161059/https://mainichi.jp/articles/20190105/k00/00m/040/160000c

国内最大の精神医学分野の学術団体「日本精神神経学会」と精神科医や施設関係者でつくる啓発団体「日本精神衛生会」が、旧優生保護法(1948〜96年)に基づく精神障害者らへの強制不妊手術に関与した「負の歴史」について自己検証に乗り出す。強制手術は、精神障害者知的障害者を主な対象としており、精神科医都道府県の優生保護審査会に手術を申請し、審査会委員も務めた。両団体の検証が進めば、手術対象者の選定の経緯や申請の実態が明らかになる。
両団体とも優生保護法の関与をめぐる検証を行うのは初めて。精神神経学会は6月に検証作業に着手。精神衛生会は今月29日に調査委員会を設置し、検証後に結果を公表する。
精神衛生会は旧法施行から5年後の53年、当時の厚生省に対し「精神障害者の遺伝を防止するため、優生手術の実施を促進させる財政措置」を求める陳情書を提出した。その直後に全国の手術件数が年間で1000件を突破しており、法律に基づく手術の申請だけでなく、手術を増やす役割も担った経緯がある。
当時、同会理事長だった内村祐之・東京大教授(故人)は、精神神経学会の理事長も兼任していた。
精神神経学会は、内部に設けた委員会で昨年夏から検証の必要性を議論してきた。今年6月に開く学術総会で優生学史の専門家らを招き、優生保護法との関わりについて検証を始める。
精神衛生会は、優生保護法の前身でナチス・ドイツの断種法をモデルとした国民優生法(41〜48年)下の不妊手術も含め、精神科医や団体の関与を調べる予定だ。同会の小島卓也理事長は「検証内容の詳細はまだ話せないが、内部でしっかり議論し、結果は一般に報告したい」と述べた。
優生保護法下の不妊手術をめぐっては、宮城県の60代女性が昨年1月に初の国家賠償請求訴訟を仙台地裁に起こして以降、計15人が全国6地裁に提訴。また、同法が議員立法だったことを受け、超党派の議員らが今年の通常国会に救済法案を提出する準備を進めており、両団体の検証を求める声も出ていた。
強制不妊手術は欧米各国でも行われた歴史があり、ドイツの精神医学精神療法神経学会は2010年、ナチス政権下で不妊手術と安楽死に協力した精神科医の実態を検証し、責任を認めた上で被害者と遺族に謝罪した。【千葉紀和】

【ことば】日本精神神経学会と日本精神衛生会

ともに日本の精神医学の草分けと評される故・呉秀三(くれ・しゅうぞう)らが1902年に創設した団体が前身。精神神経学会は35年に現名称となり、精神医学研究と医療の発展を目指した。会員数1万7000人。精神衛生会は貧しい精神障害者の治療や看護の援助を目的に発足し、現在は公益財団法人として知識の普及や専門家の育成に取り組む。会員数は精神科医精神保健福祉士ら800人。