強制不妊「不良子孫出生防止、公益の目的」 違憲性否定し励行 - 東京新聞(2018年3月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201803/CK2018032902000126.html
https://megalodon.jp/2018-0329-0940-42/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201803/CK2018032902000126.html

優生保護法(一九四八〜九六年)下で障害者らへの不妊手術が繰り返された問題で、旧厚生省が四九年の都道府県宛ての通知で、本人同意のない手術に関し、「不良な子孫の出生防止」という公益上の目的があり、医師の判断も前提としているとして「憲法の精神に背くものではない」との見解を示していたことが二十八日、分かった。国として優生思想を肯定し、違憲性はないとの認識の下で強制手術を励行していた状況がうかがえる。
今の政府は「障害者白書」などで障害者基本法の理念に基づき、優生思想につながる差別や偏見を否定しているが、旧法下での不妊手術の問題では謝罪や補償に応じていない。国会議員らの間でも救済を模索する動きが広がる中、今後の対応が注目される。
旧厚生省通知は四九年十月二十四日、公衆衛生局長名で都道府県知事に宛てたもの。本人同意がない事案で、都道府県の優生保護審査会による手術容認の決定が確定した場合などに関し、旧法の規定を踏まえて「本人が拒否しても手術を強行できる」との解釈を示している。
この点に関し「基本的人権の制限を伴うものである」と言及。一方で(1)旧法に「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と公益上の目的が掲げられている(2)医師が「公益上必要」と認めることを前提としている−点を理由として「決して憲法の精神に背くものではない(憲法第一三条参照)」と明記している。
憲法一三条は、個人の尊重を定め、生命・自由・幸福追求の権利について「公共の福祉に反しない限り、最大の尊重を必要とする」としている。
日弁連は意見書などで「特定の疾患や障害があることを理由に『不良』とみなして、子孫の出生を行わないよう働き掛けることは個人の尊厳を踏みにじるもので許されない」と主張。旧厚生省通知が参照として示した憲法一三条を侵害していると訴えている。

<旧優生保護法> 施行は1948年で、ナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れた国民優生法が前身。知的障害や精神疾患、遺伝性とされた疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶を認めた。医師が必要と判断すれば、本人の同意がなくても都道府県の「優生保護審査会」の決定で不妊手術を行うことが可能で、49年や53年の旧厚生省通知は身体拘束や麻酔使用、だました上での手術も容認していた。96年、障害者差別や強制不妊手術に関する条文を削除し、母体保護法に改定された。同様の法律により不妊手術が行われたスウェーデンやドイツでは、国が被害者に正式に謝罪し補償を行っている。