旧優生保護法 強制不妊、国の再審査1件 61〜81年「人権保障」形骸化 - 毎日新聞(2018年12月13日)

https://mainichi.jp/articles/20181212/k00/00m/040/268000c
http://archive.today/2018.12.13-003137/https://mainichi.jp/articles/20181212/k00/00m/040/268000c


障害者らに不妊手術を強いた旧優生保護法(1948〜96年)に基づき都道府県優生保護審査会が決定した強制手術に不服がある場合、本人や家族らが国の中央優生保護審査会に申請できるとした再審査について、記録が残る61〜81年の20年間の請求が1件だったことが厚生労働省の保管資料から判明した。強制不妊が人権侵害に当たるのではとの懸念に対し、国側が否定材料の根拠にしてきた「厳格な手続き」が法施行中の早い段階から形骸化していた実態が、国の記録から初めて裏づけられた。
厚労省の資料によると、81年ごろに厚生省(当時)内で作られた文書に「中央優生保護審査会は昭和36年(61年)5月19日 再審査の(1件の)申請に基づき(中略)2回開催されているが、それ以後は申請がなされていない」と記されていた。厚労省は中央審査会に関する記録について今年4月以降、毎日新聞の取材に対し、公文書保存の期間が過ぎていることなどを理由に「ない」としていた。その後の省内調査で発見したという。
毎日新聞が全都道府県に請求し開示された旧法関連の記録などによると、人権侵害への懸念は強制不妊の適否を決定する都道府県審査会が法施行直後に指摘していた。厚生省が49年10月に都道府県に行った通知によると、本人が手術を拒否した場合に強行できるかを同省が法務府(現在の法務省)に照会。法務府は強制手術が「基本的人権の制限を伴うものであることはいうまでもない」との見解を示した上で、手術決定に異議があれば再審査の申請が認められていることなどを挙げ、旧法の手続きが「人権の保障」に「十分配慮」していると強制手術を認める回答をしていた。
しかし、北海道の開示文書では65年7月、道優生保護審査会が手術を決めた女性の保護者から「決定の取り消し」を文書で求められた際、「(保護者は)同法への理解が乏しい」と門前払いしていた。神奈川県の62〜63年審査会資料では、保護者の同意が不要な4条手術(強制)に申請時に親の同意書を提出させて異議申し立てを事実上封じていた。再審査を請求できる「2週間以内」に少なくとも68人に手術が行われたことも和歌山県の資料から判明している。
一方、国は旧法が96年に母体保護法に改定された後、強制不妊の人権侵害を指摘して救済措置などを求めた国連機関に対し、再審査制度など「厳格な手続きにのっとり」手術が行われたと退けている。【上東麻子】
国は検証・説明を
松原洋子・立命館大学教授(生命倫理)の話 国は再審査制度を担保に正当性を主張してきたが、再審査が1件しか確認できない事実は制度が「厳格だった」とは言えないことを示す。国は検証と説明が求められる。