(書評)「身体(からだ)を売る彼女たち」の事情 坂爪真吾著 - 東京新聞(2018年11月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018111102000206.html
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◆公助より風俗選ぶ理由は
[評]秋山千佳(ジャーナリスト)
生活保護は、嫌です」

幼子を抱えてデリバリーヘルス(デリヘル)店の面接に来た二十二歳の女性が、きっぱりと言う。追い詰められた状況の彼女はなぜ、公助より風俗の道を選ぶのか――。
風俗で働く女性のための無料の生活・法律相談「風テラス」を行う著者は、相談の場で向き合った彼女を例に、「一見すると非合理に思える選択は、合理的選択の積み重ねによって生まれることが多い」とする。そして「身体を売る彼女たち」について、買う男が悪い、売る女が悪いといった二項対立では水掛け論に終始するだけで、「現場の不幸は一ミリも減らせない」と断じる。
本書で繰り返し語られるのは、風俗業界やそこで働く人たちの実態の見えにくさだ。著者はその不透明さを、女性のみならず、店舗を運営する男性などにも複層的にアプローチして可視化していく。
デリヘルは、貧困やDVなど「多重化した困難を抱える人たちが共に助け合い、支え合う『共助』の世界」と著者は言う。例えば、居場所としての機能。似た境遇や生育歴の人が集まる居心地の良さだけでなく、(健全経営店に限られるだろうが)スタッフの気遣いは驚くほど細やかだ。その魅力にかなわない現状の福祉の課題も浮かび上がる。
一方で、そうした「共助」の世界だからこそ、悪意ある「搾取」以上に悲惨な負の側面があることも指摘する。性感染症や性被害のリスクが高いが、当事者が過度な自己責任思考にとらわれているがゆえに、苦境に立たされても「助けて」と言えない。ストーカーされることもサービスの一部だと考える女性までいる。さらにネットにまつわるトラブルや、職業の秘密を暴露される被害など、消せない過去に苦しむ人もいる。
当事者に届く支援のあり方

を探ってきた著者は訴える。「風紀の維持や性道徳の観点だけで語られがちだった性風俗の問題を、『働いている人の安心と安全をどう守るか』という権利擁護の観点へ」と。現場を踏まえた言葉が、読むほどに胸に落ちる。

ちくま新書・950円)

1981年生まれ。東京大卒。ホワイトハンズ代表理事。著書『男子の貞操』など。

◆もう1冊 
坂爪真吾著『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書