「家族と地域で生きたい」 江戸川の難病患者ら 24時間介護サービス求め奮闘:首都圏 - 東京新聞(2018年11月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201811/CK2018111102000172.html
https://megalodon.jp/2018-1112-0905-07/www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201811/CK2018111102000172.html

東京都江戸川区に住む障害者や難病患者の5人が、24時間介護サービスの実現を求めて、区と交渉を続けている。勉強会などを開き、情報の収集や発信もしている。その1人で筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の日永由紀子さん(51)は「重い障害があっても、地域の中で生きたい」と声を上げる。 (中村真暁)
「家族には家族の人権がある!」。十月上旬、日永さんは自宅ベッドに横たわり、唯一、動く足の指を使って専用の機械でモニター画面に文字を打ち込んだ。
夫と二人暮らし。一時間ごとにたんを吸引し、随時、体位の調整、胃ろうや排せつの対応などが必要だ。夜間の介護を担う夫は職場が山梨県にある。「昼は仕事、夜中は私の介護。(夫は)心も体もぼろぼろ」
日永さんは、重い障害がある人の自宅をヘルパーが訪れる「重度訪問介護サービス」を利用している。当初、公費で介護費用をまかなえる公的介護時間として日永さんが区から認められていたのは、月五百二十三時間で、一日あたり約十六時間。このため五年前から、同サービスの支援時間の増加などを求め、弁護士と一緒に区側との交渉を始めた。多少増えるケースもあったが、議論は平行線のままだった。
状況を打開しようと、会員制交流サイト(SNS)などを通じて呼びかけ、区内に住むALS、脳性まひの患者、知的障害者ら計五人で「江戸川区の介護保障を確立する会」を昨年十二月に発足。日永さんが代表となり、会として区との交渉を始めた。
日永さんの公的介護時間は、今年九月に月六百二十四時間、一日当たり約二十時間に増えたが、残りの時間は今も夫頼みだ。メンバーには減った人もおり、日永さんは「希望からはかけ離れている」と話す。
ALS患者のメンバーの妻がいる春山豊さん(66)も、介護で寝られない生活を続け、腰を痛めた。「公的支援がなければ無理だ。施設への入居を勧める声もあるが、自宅で家族一緒にいることは大切だし、妻も安心できる」と思いを語る。
区障害者福祉課は取材に対し、「体の状況や置かれている環境など、一人一人の状況によって判断する。必要なサービスを必要な人に支給するが、公費を使うため、内容をしっかりと確認している」と説明する。

◆東京23区中5区は未実施
介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット(事務局・東京都立川市)の調べによると、重度訪問介護サービスなどを使った24時間介護サービスについて、東京23区のうち港、品川、豊島、葛飾、江戸川の5区で行った実績がない。
重度訪問介護サービスは、重度の肢体不自由者知的障害者らを対象に、入浴や食事、外出時の移動といった介護を、利用者の自己負担以外は、国や自治体が支援する。同ネットによると、このサービスを基本に、公費による訪問介護の24時間利用を認める事例が全国で増えている。しかし、認めるかどうかは自治体の裁量次第で、同居家族がいるなどの理由で認めていない自治体もある。
全国ネット共同代表の藤岡毅弁護士は「24時間介護を求める重度障害者はどの区にもいる。水が飲みたい、トイレへ行きたいなど、普通の生活を営むには支援が不可欠」と指摘。公的支援時間以外は、家族が自らの生活を犠牲にして介護を担うケースも多いとし、「家族に依存しすぎれば、気兼ねする障害者も出てくる。本人とその家族の幸せや健康にも関わる問題。自治体は当たり前の人権の保障を」と訴える。
全国ネットは7〜9月、24時間介護の実績を23区に初めて調査し、全区から回答を得た。名前を挙げた5区では、1日24時間の31日分、1月に744時間の介護サービスの実績がなかった。24時間の実績がある区の中には、重度訪問介護サービスに、区が運営する別の介護保険サービスを組み合わせている例もあった。 (中村真暁)