(政界地獄耳)冷静な議論がない「慰謝料請求権」 - 日刊スポーツ(2018年11月12日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201811120000203.html
http://archive.today/2018.11.12-012744/https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201811120000203.html

★韓国最高裁の出した判決をけしからんといきり立つ政府や大手マスコミ。そこまでの内政干渉をしていいのかと外相・河野太郎の態度にはあきれるが、5日、国会内では山本晴太、川上詩朗両弁護士が「日本の最高裁も政府も日韓請求権協定では個人の訴える権利は消滅していないと解釈している」とし「政府が『完全かつ最終的に解決した』と繰り返すのはミスリードだ。被害者個人の人権が救済されるべきだ」と訴えた。

★山本が翻訳した新日鉄住金事件大法院判決の日本語訳を読んだが、判決文の末尾には「サンフランシスコ条約第14条が日本によって発生した『損害と苦痛』に対する『賠償請求権』とその『放棄』を明確に定めているのとは異なり、請求権協定は『財産上の債権・債務関係』のみに言及しているだけであり、請求権協定の対象に不法行為による『損害と苦痛』に対する『賠償請求権』が含まれるとか、その賠償請求権の『放棄』を明確に定めてはいない」。

★「大韓民国政府と日本政府が強制動員被害者たちの精神的苦痛を過度に軽視し、その実像を調査・確認しようとする努力すらしないまま請求権協定を締結した可能性もある。請求権協定で強制動員慰謝料請求権について明確に定めていない責任は協定を締結した当事者らが負担すべきであり、これを被害者らに転嫁してはならない」と結んでいる。つまり賠償ではなく個人の苦痛への慰謝料についての議論である。当時の請求権協定がすべてを包括しているというには理屈に欠けるとともに、脇の甘さへの指摘は合理的ともいえる。

★この議論を外務省、法務省をはじめ国内法曹界は総括したのだろうか。朝日新聞までもが「韓国には法の上に国民情緒法なるものが存在する」(10月31日付)と書いたが、我が国にも官僚メディア忖度(そんたく)法なるものがあるのではないか。少なくとも国内に冷静な議論がない。(K)※敬称略