【書評】保育の自由 近藤幹生(みきお)著 - 東京新聞(2019年2月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2019021002000180.html
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◆子が自ら伸びる場 どうつくる
[評]普光院(ふこういん)亜紀(保育園を考える親の会代表)
近年、乳幼児期に「非認知能力」を育むことの重要性が説かれるようになった。知能指数や学力テストで測れる「認知能力」に対して、「非認知能力」は自尊心、意欲、やり抜く力、自制心、社会性などの計測しにくい力をいう。人間社会を生きるための基礎力であり、この力が乳幼児期に培われることで、後に「認知能力」の伸びにもつながっていくという。
「非認知能力」が言われる前から、多くの保育現場は、子どもたちにこれらの力を育むことの重要性に気づき、そのための保育の質を備えようと努力してきた。
本書は、著者の保育への深い眼差(まなざ)しから、そんな保育の姿、子どもの姿を生き生きと描き出す。そして保育のあり方を左右する保育制度の現状を、詳細な情報とともに俎上(そじょう)に載せ、対照させている。
随所に織り込まれるエピソードには、自らの力で成長する子どもの実像があり、著者の問題提起を鮮明に裏付ける。「保育の自由」は保育者・子どもの主体性によって成り立つ。改定保育所保育指針の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に「相手の立場に立って行動する」というものがある。しかし「しなさい」と言葉で教えるだけではその力は育たない。子ども自身が自分の思いを理解される体験をし、友達と自己主張をぶつけ合う体験をし、相手の気持ちに気づく体験をする。そこから自分で考えることを繰り返して身につけていく。
保育者は、そのような子どもの育ちを見通して、一人ひとりに柔軟に寄り添い、育ち合いを豊かなものにしていく。そこには、保育者がなすべき保育を主体的に考え、仲間と議論していくような「保育の自由」がなければならないと本書は提起する。それは、やり甲斐(がい)があるが、エネルギーを要する仕事である。
しかし、保育制度は保育士にその環境を保障しているだろうか。待機児童対策、子ども・子育て支援新制度、改定保育所保育指針は、このような保育を支えるものとなっているだろうか。本書は、さらなる議論を呼びかける。

岩波新書・842円)

1953年生まれ。白梅学園大・短大学長・教授。著書『保育園「改革」のゆくえ』など。

 

 

保育の自由 (岩波新書)

保育の自由 (岩波新書)

 

 

◆もう1冊 
近藤幹生著『保育とは何か』(岩波新書