木村草太の憲法の新手(90)普天間巡る国と小金井市議会 対照的な手続きの公正性 - 沖縄タイムス(2018年10月21日)


https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/332808
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知事選後、辺野古問題を巡る動きが幾つかあった。
まず10月17日、沖縄県による辺野古埋立承認処分の撤回について、岩屋防衛大臣は、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に撤回の効力を停止する申し立てを行った。
しかし、行政不服審査法は、本来、行政庁の違法・不当な公権力の行使があった場合に「国民」に「簡易迅速かつ公正な手続き」を保障し、「国民の権利利益の救済を図る」ための制度だ(同1条)。国が行政不服審査を利用するのは、「国民の権利保障のため」という制度趣旨に反する、との批判がある。
さらに、防衛省国交省も、同じ内閣の下に束ねられる行政組織だ。防衛大臣の申し立てを国交大臣が審査しても、ただのお手盛り審査にすぎず、「公正」な手続きとは言えないのではないかとの疑念もある。
沖縄県側は、処分撤回について、必要なはずの設計書面が示されなかったこと、辺野古に基地が建設されても普天間基地が返還されない可能性があることなど、深刻な問題を指摘している。国は、行政不服審査という強硬手段ではなく、沖縄県と対話の機会を設け、これらの問題を解決し、理解を求めるところから始めるべきではないか。
次に、9月25日、東京都小金井市議会は辺野古基地建設に関する陳情書を採択した。陳情書は、(1)辺野古新基地建設を中止し、普天間基地運用を停止した上で(2)日本国内の全自治体を普天間代替施設の候補地として(3)米軍基地そのもの、および普天間代替施設の要否を議論し(4)米軍の普天間代替施設が必要との判断に至った場合には、憲法にのっとり公正で民主的な手続きを経て場所を決定すべきだ−としている。
本土の自治体の議会で、このような陳情が採択されたことには、重要な意義がある。ただし、幾つかの会派の対応は残念なものだった。
第一に、自民・公明両会派の議員は、辺野古基地建設は、国が進める施策だという理由で、反対ないし棄権した。しかし、「米軍基地設置は、辺野古が最適だ」と自信があるなら、むしろ、陳情書の求めるような適正手続きを踏んで計画の正統性を高めるべきではないか。国政与党の対応は、むしろ、「辺野古が最適」との結論への自信のなさの表れに見える。
第二に、共産党会派の議員たちは、陳情書には賛成したものの、それに基づき衆参両院・政府に送ることになった意見書の議決には反対した。このことについて、同党書記局長の小池晃衆院議員は、日米安保条約や代替施設の設置自体に反対する同党の立場からは、日本全国を候補地とする部分に賛成できないと説明している。
しかし、陳情書は、代替施設の要否そのものも国民全体で検討するとしているのであり、その場面で共産党の立場から問題提起をすることもできるだろう。議論自体を拒絶するかのような対応は残念だ。
一連の出来事は、国や本土の国民との対話の困難さを改めて示すものだ。とはいえ、行政不服審査の利用に批判の声が上がっていること、小金井市の陳情書が採択されたことは、一つの希望でもある。本来のあるべき姿を取り戻すべく、なすべきことを積み重ねていくしかない。(首都大学東京教授、憲法学者) =第1、第3日曜日に掲載します