木村草太の憲法の新手(89)知事選 新基地反対の強い意志確認 国は態度改め県と対話を - 沖縄タイムス(2018年10月7日)


http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/326449
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県知事選では、国政与党が推薦する佐喜真淳氏を破り、玉城デニー氏が当選した。
今回の選挙について、「経済政策を重視する人は佐喜真氏に投票した」との分析が散見される。確かに、佐喜真氏の選挙公報を見ると、「新たな産業団地の確保」「モノレールの環状線化」といった具体的な経済政策の記載が目を引く。ただ、玉城氏も、「人材育成・社会的投資戦略」や「付加価値型の観光立県」といった理念を打ち出していた。玉城氏の当選は、「経済政策はどうでもよい」という県民の意思を示すものではないだろう。
これに対し、辺野古新基地建設については、強い反対の意志が改めて確認されたと理解すべきだ。佐喜真氏も、辺野古新基地の積極的誘致を主張していたわけではない。しかし、玉城氏が、断固反対を前面に掲げたのとは対照的だった。
これに関連して、私は佐喜真氏の「対立から対話へ」というスローガンに違和感を持った。というのも、翁長雄志前知事も玉城氏も、辺野古新基地建設には反対を貫きつつも、中央政府や本土の人との対話を拒否していたわけではないからだ。
翁長前知事は、日米安保在日米軍の存在を認めた上で、中央政府に対話のテーブルに着くことを求めていた。玉城氏も、翁長氏の意思を継ぐと言っている。他方、中央政府や本土の国民は沖縄に、「基地建設を受け入れるか、反対して無視されるか」という過酷な二択を押し付けてきた。対話が成立しない原因は、中央政府と本土の国民にある。対話のために沖縄が変えるべき点はない。
ところで、辺野古新基地建設を知事選の争点とすることについて、安全保障は国全体の問題だから、一自治体が意見を言うのはおかしいと考える人もいるかもしれない。しかし、米軍基地設置は、沖縄県や名護市の自治権制限になるのだから、意見を言うのは当然だ。日本国憲法には、地方自治の尊重を定めており、過去には、自治体が憲法に依拠して中央政府に異議を申し立て、強硬な姿勢が改まった事例もある。
例えば、2015年、東京の新国立競技場の建設に際し、下村博文文科相が東京都に500億円の拠出を義務付ける法律を作ろうとした。この時、舛添要一都知事は、そのような法律の制定には、憲法95条に基づく都民投票の承認が必要であり、東京都に一方的に負担を押し付けるのはおかしいと批判した。この批判を受け、国は都と交渉を行い、建設合意に基づき進められることになった。
あるいは、1968年、政府はミサイル試射場建設のため、小笠原諸島のいくつかの島を東京都から切り離し、政府直轄地にする法律を制定しようとした。これに対し東京都や小笠原村は、そうした法律の制定には、憲法95条に基づき、東京都ないし小笠原村民の住民投票が必要だと異議を申し立てた。これにより、計画は頓挫した。
2016年の辺野古訴訟では、沖縄県憲法に依拠して異議を申し立てたにもかかわらず、最高裁判所は不当にも無視した。選挙で改めて県民の意思が示された以上、国はこれまでの態度を改め、沖縄との対話に踏み出すべきだ。(首都大学東京教授、憲法学者

憲法第95条 【特別法の住民投票
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、 その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。


解説
国会で、ある特定の地方公共団体にだけてきようする特別な法律案が可決された後、その地方公共団体の住民による 住民投票にかけられ、有効投票の過半数の賛成をもって初めて法律として成立します。
「 一の 」 とは、 「 特定の 」 という意味であって、複数の地方公共団体に関する特別法もあります。 実際、 横須賀、呉、佐世保舞鶴の四市に適用された旧軍港都市転換法(注1)が、本条の特別法にあたるとして 住民投票が行われたことがあります。
なお、近年では地方自治体の重要な課題について住民投票に関する条例を制定して政策決定を行う事例が増えてきています。  その多くは市町村合併に伴うものですが、1997年に実施された沖縄県名護市の在日米軍普天間基地返還に伴う 代替海上ヘリポート建設の是非を問う住民投票などが記憶に新しいのではないでしょうか。

(注1) 1950年4月に可決された特別法。  旧軍港四市を平和産業港湾都市に転換する事により、平和目的に寄与するために制定された法律。

http://www009.upp.so-net.ne.jp/law/k0095.html