3選はしたものの 安倍1強の限界明らかだ - 朝日新聞(2018年9月21日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13688381.html
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1強の弊害に真剣に向き合わず、異論を排除し、世論の分かれる政策も数の力で強引に押し通す。そんな安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない。さらに3年の任期に臨むのであれば、真摯(しんし)な反省と政治姿勢の抜本的な転換が不可欠である。
自民党総裁選は7割近い得票を得た安倍首相が、石破茂・元幹事長の挑戦を退けて3選を決めた。しかし、国会議員票では8割を得ながら、党員・党友による地方票は55%にとどまった。石破氏に投じられた45%は、首相に対する批判票と受けとめるのが自然だろう。

■「品格」なき締めつけ

6年ぶりの選挙戦となった今回の総裁選では、開かれた政策論争に後ろ向きな首相と政権党の姿勢が際立った。
石破氏が8月上旬に立候補を表明したのに対し、首相は西日本豪雨への対応などを理由に態度表明を遅らせ、結局、告示前の討論会は実現しなかった。告示後も北海道での大地震や外交日程を理由に、実質の運動期間はほぼ1週間に短縮された。
表の論戦を極力避けようとする一方で、水面下では首相を支持するよう強烈な締めつけが行われた。「『石破さんを応援するなら辞表を書いてやれ』と言われた」。石破派の斎藤健農水相は首相陣営から、そんな圧力をかけられたと明かした。「官邸の幹部でもある国会議員から露骨な恫喝(どうかつ)、脅迫を受けた」と、フェイスブックに書き込んだ地方議員もいた。
ところが、「品格ある希望にあふれた総裁選」を掲げた首相が、陣営をたしなめた形跡はない。斎藤氏に対し、そう言った相手の名前を明らかにするよう求めるなど、「告発」を封じるかのような対応を見せた。
論戦そっちのけで票の積み上げに奔走する首相陣営の世論との乖離(かいり)を象徴的に示したのが、選挙戦最後の首相の東京・秋葉原での街頭演説だった。公の空間であるにもかかわらず、周辺を支持者で固め、首相に批判的な聴衆を遠ざけた。

■「権力」への自省欠く

森友・加計問題など、1強政治がもたらしたおごりやゆがみに加え、総裁選での安倍陣営のふるまいが、一般の世論により近いとされる党員・党友の投票行動に影響を与えた可能性は否定できない。党内7派閥のうち5派閥が競うように首相支持で動くなど、1強になびいた国会議員の姿とは対照的だ。
「権力は腐敗する」というのが歴史の教訓だ。それだけに、強い力を持った長期政権においては、謙虚に批判に耳を傾け、自省を重ねる姿勢が欠かせない。危惧するのは、首相にその自覚がうかがえないことだ。
引き続き政権を担う以上、その前提として求められるのが、問題発覚後1年半がたった今も、真相解明にほど遠い森友・加計問題に正面から取り組むことだ。
政治や行政への信頼は、あらゆる政策遂行の基礎である。にもかかわらず、首相は3選後のきのうの記者会見でも、「一度できあがったイメージを払拭(ふっしょく)することは、そう簡単ではない」と、問題の本質をすり替えた。
首相に近い人物が特別扱いを受けたのではないかという疑惑。そして、公文書を改ざんしてまで事実を隠蔽(いんぺい)する官僚。国会は巨大与党が首相をかばい、行政監視の責任を果たせない。
こんな政治をたださねば、悪(あ)しき忖度(そんたく)もモラルの低下も歯止めが利かなくなる。その悪影響は社会の規範意識をもむしばみかねない。問題のたなざらしは許されない。

■国民に向き合う覚悟

安倍政権の前には、内政・外交とも重い課題が山積する。
アベノミクスの成果を、どうやって地方や中小企業に広げるのか。首相は金融緩和の「出口」に触れたが、デフレ脱却の見通しが立たない中、任期中に道筋をつけるのは容易ではない。社会保障制度の立て直しや財政再建も先送りはできない。
首相が重ねて意欲を示した自衛隊明記の憲法改正は、明らかに喫緊の課題ではなかろう。本紙の9月の世論調査でも、総裁選の争点で改憲を上げたのは8%と、6項目のなかで最低だった。長期政権の持てる力は、少子高齢化や年金・医療・介護など、国民生活に深くかかわる課題にこそ集中すべきだ。
いずれも、幅広い国民の理解と支持を得ながら進めなければうまくいくまい。政権与党の方針を推し進めるだけでは、国民の分断を招きかねない。野党を敵視し、対立をあおるようなこれまでの手法を、首相は改める必要がある。
問われているのは、国民に向き合う覚悟である。まずは臨時国会を速やかに開き、所信でその決意を表明する。そのうえで具体的な行動を通して、1強の弊害をただしていく。
この3選を出直しの機会にできなければ、次は来年の統一地方選参院選で、国民全体の審判を受けることになる。