<安倍政権に注文する>自民総裁に連続3選 国民の声を畏れよ - 東京新聞(2018年9月21日)

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安倍晋三首相を見る国民の目の厳しさを、党員票が代弁していた。これから最長三年間、政権を担う安倍氏に注文したい。「国民の声を畏れよ」と。
石破茂元幹事長が予想以上に善戦したのではないか。安倍、石破両氏の一騎打ちだった自民党総裁選。現職総裁の安倍氏が連続三選を果たしたものの、報道機関の電話調査などで三分の二程度は得るとみられていた党員票(党員・党友の票)は55%にとどまった。
安倍陣営は、石破氏が六年前に得た党員票が55%だったため、当初の目標通りと平静を装うが、その心中は穏やかではあるまい。
今回の総裁選で投票権を持つ党員・党友は百四万二千六百四十七人。国会議員票と同じ四百五票が割り当てられ、得票数に応じて両候補に比例配分された。
国会議員票で八割以上を獲得した安倍氏の党員票は六割弱。石破氏は国会議員票は二割弱だが、党員票は四割以上に達した。
党員・党友は自民党支持者である上に、全有権者の1%にも満たない。厳密に言えば、世論を正確に反映しているわけではない。
しかし、一般の有権者と同じように暮らし、働いている分、国会議員に比べて、国民により近い立場にあることも事実だろう。党員票は、世論の動向をある程度反映した指標になり得る。
石破氏が予想以上の党員票を得たことは、国民が安倍政権に厳しい目を向けていることの表れと、謙虚に受け止めるべきである。
来年春に統一地方選、夏に参院選がある。特に前回二〇一三年に圧勝した参院選で、前回並みの議席を得るのは容易ではない。

◆真摯な反省感じられず
その上、党員の安倍氏支持に陰りが出始めたとすれば、選挙戦がより厳しいものになるのは避けられない。
では、なぜ国民は安倍政権に厳しい目を向けているのか。
それは公平、公正性が疑われる行政判断、強引な政権・国会運営が続き、政権に対する信頼が低下しているからにほかならない。
今回は、安倍氏が連続三選を果たしたとしても、石破氏の問題提起により、信頼回復の起点となる可能性を含む総裁選だった。
しかし、実際にはその好機を逸したと言っても過言ではない。安倍氏の言動を振り返る限り、真摯(しんし)な反省が感じられないからだ。
例えば、公正・公平であるべき行政判断が安倍氏の影響力で歪(ゆが)められたか否かが問われた森友、加計両学園をめぐる問題である。
安倍氏は総裁選の討論会などで「私の妻や友人が関わってきたことで、国民が疑念を持つのは当然だ」と語り、「行政を巡るさまざまな問題が起こり、国民の信頼を揺るがす事態になった。まさに私の責任だ」と認めた。
しかし、さらに追及されると、「金銭をもらって政治的に便宜を図った贈収賄事件ではない」とかわし、「この問題も含めて昨年、衆院総選挙を行い、国民の審判を仰いだ」と突っぱねる。
これでは「今後、慎重に謙虚、丁寧に政権運営に当たっていきたい」との言葉が空疎に響く。
報道機関の世論調査では森友、加計両学園を巡る安倍氏の説明に納得していない人は依然、七割程度に達する。こうした国民の声を選挙に勝ったからといって突っぱねていいわけはない。
安倍政権はこれまで国民の反対・慎重論を顧みることなく、法律の成立を強行するなど、強引な国会運営を繰り返してきた。
今年の通常国会では、年収の高い専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を創設する働き方関連法であり、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法である。
さかのぼれば「特定秘密」を漏らした公務員らを厳罰に処す特定秘密保護法違憲性が指摘される安全保障関連法、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法も国民の反対を押し切っての成立だった。原発再稼働も同様である。
その積み重ねが政権への信頼を蝕(むしば)み、党員票に表れたのだろう。

◆同じ轍踏ませてならぬ
二〇年までの改正憲法施行を目指す安倍氏は、今秋の臨時国会自民党改憲原案を提出する意向を表明したが、報道機関の世論調査では、反対が約半数に達する。
国民の反対・慎重論を押し切って改憲案の発議を強行するようなことは、絶対に許されない。
安倍氏は、主権者たる国民を畏れ、その声に耳を傾けて政権運営に当たるべきである。法律の成立を強行してきた、これまでと同じ轍(てつ)を踏むべきではないし、私たち国民も、踏ませてはならない。