(大弦小弦)「死を疎むことなく、死を焦ることもなく… - 沖縄タイムズ(2018年9月19日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/316844
https://megalodon.jp/2018-0919-1437-59/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/316844

「死を疎むことなく、死を焦ることもなく。ひとつひとつの欲を手放して、身じまいをしていきたいと思うのです」。15日に亡くなった女優樹木希林さんを起用した数年前の新聞広告のメッセージ。穏やかで信念に基づく死生観が胸に響いた

▼テレビやCM、映画などでさまざまな顔をみせてきた樹木さん。全身がんの公表後も高い演技力はもちろん、個性的で飾らない言動や自分らしく生きる姿は、多くの人を魅了した

▼幼少期は友達はいない、スポーツは苦手、人としゃべらない、一人で遊んでいたという。そんな自分を恥ずかしくないと思ったきっかけは水泳大会の「歩き競争」。1位を取って味をしめ、人と自分を比べないという価値観を持てたそうだ

▼その価値観こそが、演技だけでなく、生き方、死への向き合い方を形作ったのだろう。カンヌ映画祭最高賞の「万引き家族」では人が老いて、壊れていく姿をみせたいと入れ歯を外した。人間のありのままを演じるこだわりだ

▼樹木さんは、番組収録のため新基地建設が進む名護市辺野古のゲート前を訪れ、市民の声に耳を傾けたことがある。沖縄の現状をありのまま受け止めたに違いない

▼生きづらさを抱える若者にも言葉を残した。「人間は自分の不自由さに仕えて成熟していく」。自分らしく生き抜いた樹木さんそのものだ。(赤嶺由紀子)